知っておきたいマルクス「資本論」

内容(「BOOK」データベースより)

金融危機と世界同時不況。今日の世界経済は第2次大戦後最大の危機に瀕している。こうなったのはどうしてか。資本主義経済のどこにその原因があるのか。その答えを求めて、いまマルクスの『資本論』が再読されている。本書は、マルクスの説く、商品・貨幣と資本の関係、労働力と賃金、剰余価値の生産など、資本主義の考え方と仕組み、資本主義社会の矛盾などを平易に解説。今日的な視点で読み直すとよくわかる「資本論」入門。


 序説でマルクスという人物と「資本論」について簡単に書かれた後に、資本論1巻の内容を順序を変えて、その内容を説明している。当時最先端の経済学の研究書である「資本論」の解説本。
 「序説 マルクスと『資本論』」本書で紹介されている「資本論」の第一巻は『資本主義の最も本質的な過程の分析であり、ひとつの全体をなすもの』(N154あたり)。
 『資本主義というのは、原材料をちゃんと買い、労働者に賃金を(理論的には)ちゃんと支払って商品生産を行い、それを売ると儲かるという、手品のような生産様式である。しかし、どうして不等価交換でなくても利益が生まれるのか、結局マルクス以前の経済学者にはそのカラクリがわからなかったのである。』(N188あたり)
 重農経済学派のケネー、生産的労働は農業だけで工業はすでにある原材料の形を変えているから価値を生み出さない。最初の経済学の考えはそうしたものだった。
 一方でアダム・スミスなどの古典派経済学は、工業労働も含めて人間の生産的労働一般が価値を生むと考えるようになる。しかし彼らも『資本家の儲けの源泉を説明できなかった』(N201あたり)。
 『労働者に価値通りの賃金を支払っても資本家に余剰価値が残ることの謎は、マルクスによる「労働力商品」の発見によってはじめて解明された。そのことが『資本論』第一巻の大きなポイントになっている。』(N201)

 W―G―W(商品―貨幣―商品)商品を売って、自分で使うための別の商品を買う。これが貨幣流通。
 G―W―G(貨幣―商品―貨幣)商品を売るために買う。これが資本流通。しかし貨幣と商品が等しいのならば、それでなぜ利益が出るか。『これは経済学にとってきわめて重要な難問であり、結局マルクス以前には解けなかった問題であった。価値について言えば、等価交換からは剰余価値は生まれず、不等価交換では、個人的には利得があっても、社会的には富(価値)は増えていない。流通ではやはり価値は増殖しないのだ。』(N890あたり)
 G―WもW―G'も等価交換。だとすればWの価値を流通外で上げる必要がある。価値を増やすことができるのは人間の労働。資本家は労働をする使用価値を持つ商品、労働力商品を仕入れる。


 資本主義的生産様式での商品生産。マルクスが書いた撚糸(木綿糸)の生産する紡績工場の例え話。例えば原料の綿花が10ポンドで10シリングだとすると、それを紡績するのに紡績機械の紡錘は2シリング分消耗する、そして10ポンドの撚糸を作るのに労働者は平均6時間働き、その労働力商品の価値である3シリングを払う。これで計15シリングの価値があるが、それを15シリングで売ったならば資本家の儲けがない。資本家は儲けるために事業をしているので、それでは意味がない。
 資本家「一日分の労働力を買って6時間しか働かせていないのが問題」。そこで労働者にもう6時間働かせたならば、原料20ポンド(20シリング)と機械の消耗4シリング、労働力再生産費(賃金)3シリングとなる。そうすると計27シリングで20ポンドの撚糸ができて、以前と同様に10ポンド当たり15シリングで売ると3シリング儲けが生まれる。そして資本家は労働者一人当たり三シリングの儲けを得る。
 『種明かしをすれば、労働力の日々の維持のためには、この例でいえば、実際には六時間の労働しか必要としないという事情が、剰余価値の生産の秘密であった。それだけの生産力があることが、資本主義の前提になっている。
 これで問題が解決した。労働力もその日の価値通りに売買され、等価交換の法則を守りながら、ついに剰余価値を生産することができたのである。』(N1113あたり)


 何故資本家は生産力を上げようとするのか。マルクスがあげた例。
 ある商品の価値が1シリング(12ペンス)の時に、新しい機械を導入して9ペンスで作れるようになった。それを導入した資本家は社会的価値で売ると、他社と同じ価格1シリング)で売れる。そうすると特別剰余価値(3シリング)が生まれる。また、より多く売るために他社よりも少し安く売ってもまだ特別剰余価値があるし、多く売れる。その商品が出回ると今までの生産方式では競争に負けるので他社も新しい機械を導入するから、社会的価値が9ペンスとなる。特別剰余価値は新しい方法が普及するまでの間特別な儲けを得られるので、資本家はその儲けを求めて新しい生産方法を導入する。
 それが色々な分野で繰り返し起きることでさまざまな商品の価値が下がる。労働者を再生産する費用も安上がりになるから、賃金も下げることができて、剰余労働時間が増える。

 失業は何故なくならないか。『それに対するマルクスの回答は明快である。資本主義のもとで失業者はなくならない。なぜなら、それは絶対的に過剰な労働者人口なのではなく、資本は自分の必要より相対的に過剰な失業者をたえずつくりだしているからだ、ということになる。』(N2242あたり)
 『失業者の存在は、実は資本主義的生産様式の存在条件になっている。追加資本を投じて拡大再生産をするときに、社会に追加的労働力がなかったら、拡大再生産ができないからだ。必要なときにいつでも労働力を市場で買える状態であることが、資本にとって絶対必要なのである。したがって失業者は資本にとって産業予備軍である。』(N2260あたり)
 資本が大きくなれば産業予備軍(失業者)も増える。そうした失業者がいることで『雇用された労働者も失業者と競争させられることになり、資本に屈服を強いる手段となっていく。つまり「労働者階級の一部の過度労働によって、他の一部に強制的怠惰を課すことは、またその逆のことは、個々の資本家の到富手段となり、また同時に、社会的蓄積の進展に対応する規模の産業予備軍の生産を促進する」のである。せっかく使える労働者がいるのに、それを使わないでおくというのは無駄のようにみえるが、失業者がいることによって、雇用されている労働者により多くの過度労働を強いることができ、資本家の到富手段、金もうけの手段になっているのである。』(N2347)