いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても

いまさら翼といわれても

 古典部シリーズ、短編集。ネタバレ含む。
 少し前に出ていたようだけど、基本的に文庫派なので単行本の新刊チェックはしていなかったので発売に気付くのが遅れてしまった。
 前向きで明るい変化が描かれている「わたしたちの伝説の一冊」と「長い休日」が特に好きだな。

 「箱の中の欠落」里志が生徒会長選挙を手伝った時に起きた、誰かの悪意の悪戯で生徒総数よりも票が増えた。里志が抱える問題ではないが、嫌な感じの選挙管理委員長がちょっとした手順ミスをした下級生が今回のトラブルの元凶のように下級生が泣くまで追求していた。そのことで下級生のために、その下級生のミスではないことを証明したいと考えて、奉太郎に相談する。
 「鏡には映らない」伊原が中学の卒業制作での折木の「手抜き」の真意を探る。大きな鏡の木製の飾り枠が中学の卒業制作だった。その飾り枠のデザインをした鷹栖を、「手抜き」したことで泣かせた。そのことでその部分を担当した折木が悪者になった。シリーズの最初の頃、伊原は折木にやたらと当たりがきつかった印象があったが、その出来事が本編開始前にあったからそうした態度だったのか。その理由が明かされて、納得。
 しかし古典部で一緒に過ごして、やるべきことはやる人間だとわかった。だから卒業制作で行った露骨な「手抜き」には何か企みがあったのではと気付いて、それについて知ろうとする。
 「連峰は晴れているか」折木がふと思い出した中学時代の教師の一エピソードを口にする。その教師についての里志の話で、自分が口にしたエピソードに別の意味があるのではと気付く。
 「わたしたちの伝説の一冊」伊原と漫画の話。漫研をついに辞める。そして河内先輩と本気で漫画を描くことになる。この話で二人が面倒なしがらみから自由になり、大きく前進したという印象で好きだな。
 それに折木の中学時代の読書感想文も面白くていいね。
 「長い休日」折木の妙に調子がよく、気力が満ち溢れた一日。千反田の質問から、折木の「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」という信条を持つにいたった小学生時代の出来事が語られる。自分の善意が都合よく使われて、そして要領の悪いと馬鹿だと思われていることに不意に気付いたことで、そういう主義となった。そのことに気付いて、宗旨替えして現在の主義のようになるといった奉太郎に対しての姉のやさしい言葉がいいね。
 そして最後で年月や千反田との出会いで、この調子のよい一日にとった行動でわかるように、ようやくその信条に頑なではなくなってきている。長い休日が明け始めていることがわかる。
 「いまさら翼といわれても」表題作。長い休日に書いてあったような折木の変化が伺える。