魔人執行官

 ネタバレあり。
 未来、ワイジアン(賢人)とフォーシアン(魔人)という新人類が誕生した世界。東京は空中都市(新市街)と旧市街にわかれている。上に新市街ができて文字通りのアンダーグラウンドとなった旧市街。そうした階層都市的な物語舞台はわりと好き。
 人間の中から幻炎の翼に取りつかれて特殊な能力を得ると同時に、人を襲うNEOとなる者がいる。NEOは「天使」とも呼ばれてもいて、その力と衝動をもたらす何者かがいる。また、それを退治する「魔人」とも呼ばれるフォーシアンという新人類がいる。フォーシアンはそうした無作為に誕生し死を撒き散らす「天使」を倒している。しかし天使の存在は公にされず、フォーシアンの強力な力は知られているので、人々の間にはフォーシアンに対する根強い偏見とネガティブな感情がある。
 国はNEOに対抗できる『フォーシアンに『マーシャル』のライセンスを交付して、報奨金付きで無力化を依頼している。』(P40)しかし天使から力を奪った後、命を落とさぬケースは稀。フォーシアンの側にもNEO退治の理由があるのでそうした制度は機能していて、フォーシアンは官と協力関係にある。
 そんなフォーシアンのマーシャルである久我囲暁琉と、ひょんなことから暁琉とNEOとの戦闘を目撃してそこで普通の人間(コモン)では見えないフォーシアンやNEOの力が見えることが判明した秋竜胆花月の二人が主人公。そして暁琉にはサポートをしてくれる友人のワイジアン多聞理務とその妻で同じくワイジアンの多聞椿がいる。
 暁琉はフォーシアンの検査漏れかコモンだが異能を知覚できるイレギュラーか、その検査をするために彼女に会いに行く。
 花月が暁琉に一目ぼれしているという関係性も面白い。暁琉は彼女をいい子だと思うが、彼は優秀な妹に対してコンプレックスを持っていて、その妹と同年輩なのでどうしても苦手意識がある。
 暁琉は家族は優秀なのに自分だけ平均程度の能力しかないのでコンプレックスを抱えているが、特殊な技術を使えて、またNEO退治の仕事も優秀にこなす。
 検査の結果花月は、フォーシアンの能力『ドミネ』が使えないからフォーシアンでないが、その源泉である心霊的な力を作動する道具をフォーシアンと同じように使える存在であるとわかる。ここでNEOのことをそこで知る。そして多聞椿からNEOの力を防ぎ、いざというときには戦える道具SF(スピリチュアル・フォース)ツールを貰う。しかしいざという時に纏う装備にも変身できるが、それは大いに椿の趣味が反映されたものだった。
 NEO単純に人を殺傷するだけでなく組織があるようだ。NEOは自らを「調整者」と呼び、世界人口を調整する者を自認している。世良先生と冴凛と呼ばれる二人、彼らでもNEOとは何かとか、なぜ今回日向に感染したかのように宿り、その後それまでにない翼ある巨人の姿になったかはわかっていない。組織の人間にとっても自分たちNEOというが何なのかということについては、細かなところまで把握していない。
 『旧市街でも新市街の人工地盤の下にあたる部分は偵察衛星からも見えなくなっている。』(P211)そのような外部から切り離された怪しく危ない地区というアンダーグラウンド感いいね。
 普段暁琉は理務にサポートしてもらっている代わりに、彼が試作したホッパーというモータースポーツのテストライダーになるなど労働力を提供している。
 しかしこの物語世界、フォーシアンに対しても暁琉個人に対してもやたらと当たりが強いね。