カンタベリー物語

カンタベリー物語 (角川文庫)

カンタベリー物語 (角川文庫)

 kindleで読了。
 巻末の「『カンタベリー物語』の由来」にあるように、14世紀イギリスの国民的叙事詩で元は韻文。訳は散文。この本は全訳ではなくその中の一部のエピソードを抜き出した抄訳。全体のどの程度を収録したのかやどういう基準でエピソードを収録したのかをどこかに書いてあればよかったな。

 ロンドン郊外の宿に泊まったカンタベリー寺院に参詣する身分も職業も違う人々。宿の主人からの提案もあって、その人々の間で道中に各人行き帰りそれぞれ二つずつの話をして、一番面白い話をした人に皆でご馳走をして、面白くない話をした人が道中の費用を払うということになる。しかし30人ほどのそうした勝負に全員が賛成している。清貧な牧師や農夫などもいるけど、そんな費用が払えるのかと心配になる。作者は彼らはびりにしないから入れているのか、それとも金の事をしっかりと考えないで同意しているのか。
 冒頭で一気に人物の紹介がなされる。
 道中での各人が話す、小話・説話的な物語とその話が終わった後の同行している人々の反応が書かれる。語られる物語には世俗的な話、寝取られ話が多い印象。
 「粉屋の物語」大工とその若い妻、その妻に恋慕する学生と教会の書記の話。大工のところに下宿する学生と大工の細君は好い仲になった。学生はやきもち焼きの旦那を騙して二人の時間を作る。その時に教会書記が来て、二人は彼をこけにする。そして教会書記は次に学生が尻を出してきたところに熱した鋤をじゅっとあてる。旦那もその若い妻への求愛者もそれぞれ酷い目に遭うという笑話。
 「家扶の物語」元大工の家扶は、粉屋の話に不機嫌になって粉屋が痛い目に合う話をする。大いに粉をくすねている粉屋に、学生二人が最初はその不正を見つけようと意気込むも逆にやり込められる。しかしその夜粉屋の家に泊まることになった二人は、一人は娘と同衾する。そしてもう一人は勘違いで奥さんを寝とって、奥さんは翌日に亭主の頭をしたたか殴りつけることになる。そんな粉屋が酷い目になっておしまいという話を披露する。
 「船乗りの物語」商人とその美人の妻、商人と親しく交際する修道僧。商人の妻の浪費癖があり、彼女は借金を返すための金を秘かに工面するためにできることは何でもすると修道僧にささやく。修道僧は商人がフランドルに行ったら、その悩みを救うと受け負う。そしてフランドルに行く前に修道僧は商人にそのお金を借りて、商人の妻に渡し、修道僧と商人の妻は楽しむ。そして商人が帰って来た時に、修道僧は金は商人の妻に返したと述べる。騙されたと気づいて商人の妻は怒るが、結局その金は必要なことにつかったで押し通す。これは修道僧は上手くやったと取るべきか、それとも一度の情事で信用を犠牲にしたととるべきか。もしかしたら商人の妻からの誘いがあって、今までのように家族のようには付き合えぬと商人夫妻との交際にある程度見切りをつけたからこそした行為なのかもしれないが。
 「送達吏の物語」托鉢僧のそんな物語に対して、今度は彼が托鉢僧を馬鹿にする物語を話す。長年寄進して、いまだ病気が治らない信者に対して托鉢僧はぬけぬけとさらなる寄進を要求する。それに対して病人は怒りながらもそれを隠し、尻の下に隠してあるものを皆で均等に分けてくださいと述べる。病人はそれが貰えると思って尻の所に手をやった托鉢僧に屁を一発かます。それに托鉢僧は怒って地主に文句をいうと、そこの息子が大真面目に屁を均等に分ける方法を提案して、地主一家らはそれは名案で、病人も頓知に長けた男だと托鉢僧以外は皆褒める。そのように托鉢僧はこけにされたが、周りがその行為を才智頓知によるものだと言って褒めたので、不満を呑みこまなければならなくなる。
 「商人の物語」老いた騎士と若い妻の結婚。老人の友人たちの結婚についての是非の意見と、妻と間男の密通とそれが露見した時の妻の誤魔化しの話。