オリエント急行の殺人

 kindleで読了。ネタバレあり。
 シリアでの事件が終わったポアロはタウルス急行でイスタンブールへ向かう。その車中には他の客としてメアリ・デブナムとアーバスノット大佐がいた。その列車での二人の会話で、二人は親しく二人には秘密にしなければならない何事かが存在すると示される。また列車が急停車したときに10分遅れた程度だったが、メアリ・デブナムは大きく動揺していた。
 イスタンブールで事件進展の知らせが来たポアロはシンプロン=オリエント急行の寝台車を取ろうするが、珍しいことに一等寝台車が全て予約済みだといわれる。ポアロイスタンブールで何年前も前から付き合いのある国際寝台会社の重役ブーク氏と再会する。ブークは普段いつも予約を入れないようにしている十六号のコンパートメントを使えるようにしようと請け負う。
 そして駅まで二人で行ったが16号室までも埋まっていることがわかる。そして二等寝台に一つ空きがあるが片方を予約したのがご婦人なので使えない。二等の七号客室に予約した客が出発間近なのに現れていないので、ポアロはそこを使うことになる。
 翌日の昼食をブーク氏と共にとる。そこで列車に残る他の乗客たちの姿を見ることになり、乗客たちの紹介がなされる。そこでメアリ・デブナムとアーバスノット大佐も見かけるが、二人は違うテーブルで食事をとっている。
 ポアロは米人の金持ちラチェット氏から仕事を頼まれるも断る。
 翌朝に食堂車に行くと、雪で足止めされることを愚痴る乗客たちの姿があった。メアリ・デブナムはタウルス急行が一時停止した時とのような異常なまでの心配ぶりはない。
 食堂車であれこれと乗客が語っている中でポアロはブーク氏に呼びだされ、前夜にラチェット氏が殺されていることを知る。ラチェットは12か所の刺し傷が死因で、右手で刺した傷と左手で刺した傷が混じっている。ポアロはブークからこの事件の調査を依頼されて引き受けて、調査する。そして雪のおかげで犯人の外部犯説はなくなり、イスタンブール=カレー間の寝台車に絞られる。
 現場の床にはイニシャルのついた女性物のハンカチとパイプ・クリーナーが落ちていた。また被害者のパジャマのポケットから一時十五分で止まった金時計がでてきた。しかしポアロは、それらは犯人が仕込んだものかもしれないと疑う。
 部屋の窓は開いていて通路へ出るドアは内側から鍵がかかり、隣のコンパートメントに通じるドアは向こう側からかんぬきがかかっている。そのため犯人は窓から逃げたのだと思わせようとしたが、雪のおかげでその企みは失敗した。
 そしてポアロは焦げた紙片の文字を読み取ることに成功して、その紙片には「小さなデイジー・アームストロングのことを忘れ――」と書いてあった。それでラチェットの本名がカセッティだと判明する。
 カセッティはアームストロング家誘拐事件の犯人。アームストロング誘拐事件は莫大な身代金を払ったが、後に娘が遺体で発見されて、それにショックを受けた家族に悲劇が訪れたというもの。逮捕されたカセッティは、あちこちに金を使って運動し無罪放免となった。そして海外へ逃げ出して偽名で紳士として生活していた。
 「第二部 証言」ではポアロ達が車掌や乗客たち一人一人に話を聞いていく。
 ラチェットの隣のコンパートメントにいたハバード夫人の証言では、前夜に車掌を呼ぶベルを何度も押し部屋の中に誰かいると主張していたが、その部屋の中に車掌のボタンが落ちていた。車掌が前夜に呼ばれて、部屋の中を調べた時には行かなかった場所で発見されている。
 ハバード夫人にベルに呼ばれたとき車掌は同僚と話していたし、車掌のボタンも彼らのボタンもなくなっていない。そこでそのボタンを落としたのが犯人で、その人物がハバード夫人のコンパートメントを通って抜けだし、車掌が来るまでの間に自分の部屋に戻っていた可能性があることがわかる。
 そして一通り乗客の証言を聞いて、浮かび上がった赤いガウンの女と車掌服の男という謎の人物。公爵夫人のメイドの証言からわかった後者は、ラチェット氏から車中での襲撃を防いで欲しいと依頼を受けた探偵ハードマンがラチェットから聞いた犯人像(小柄で色の浅黒く、女性のような声)とも一致。そしてハバード婦人のコンパートメントで見つかった車掌のボタンからもその存在を裏付けられる。またアーバスノット大佐とマックィーン氏からも車掌が部屋の前を通ったという証言がある。
 恐らく犯人である小柄で浅黒くて女のような声をした人物は、誰にも想像つかない意外な隠れ場所にいるか、客が巧みに変装したものと思われる。
 ポアロがブークと医者に乗客の証言でわかったことをまとめて伝えていると、ハバード夫人が突然やってきて化粧ポーチに大きな血まみれの短剣がと述べたあと、くらりと気を失う。その凶器は『どの傷もこの刃と一致するでしょう』(N2598)。これが発見されてポアロは他の乗客の荷物検査を行う。メイドの荷物からは車掌の服装が、そしてポアロの荷物に赤いガウンが入れられていた。
 3部では、それまで出てきた情報がポアロによって整理されて書かれる。証言を全て信用すると、犯人が居なくなる。そうすると外部犯ということになるが、しかし外部犯説は最初にないと否定されている。そうなると、どこかに嘘があるか共犯かということになる。
 犯人の2つの誤算。ひとつは雪、もうひとつはポアロが手紙の切れはしから文字を復元して、アームストロング家の事件がらみだとわかったこと。
 その後、ポアロにアームストロング夫人の妹ではないかという推理を述べられたアンドレニ伯爵夫人は、確かに自分はアームストロング夫人の妹だと認める。
 この他にもポアロの推理で次々と乗客たちが、アームストロング家の関係者であることが判明していく。そのようにポアロはラスト近くになって次々と嘘を看破して、新事実をひきだしていくのは面白い。普通はこんな根底から全ての人の証言を疑えない。それができるのは名探偵っぽくていいね。
 そうして次々に乗客たちがアームストロング事件の関係者だと明らかになる。
 そして最後にポアロは事件についての2つの推理を乗客に披露する。まず最初にポアロは犯人の筋書き通りというか、庇うような外部犯説の推理を述べて、次に彼が見抜いた真相の推理を披露する。

 以下、真相について触れている。

 まず、この事件では犯人が絞れず、誰も犯人ではないように見える。関係のないような相手の間で、不思議とアリバイが成立していることで『誰か一人に疑いがかかっても、ほかの一人もしくは複数の証言によってその疑いが晴れ、事件が混乱するように仕組まれていたのです。』(N3935)ハードマン氏の証言は他の誰かが疑いを掛けられて、アリバイ証明できなかった場合のために必要なもの。
 そしてポアロは全員が犯人という真相を明らかにする。ハバード夫人はその推理を正しいと認めて、ポアロに自分一人の犯行にしてくれと頼む。そこでポアロはブークに目を向けると、ブークもコンスタンティン医師も最初の説が正しいと思うと述べる。そのようにして真相を明らかになったが、ポアロたちは犯人たちに同情的で自分たちも含めて真相を隠す共犯となる。
 あと個人的には全員が犯人というのは、途中で可能性の一つとしてそういう疑いがでることはあるけど、本当にそういう結末に至った本を読むのは初めてなので驚いた。そんなに大きな仕掛けだったとは思わなかったので、結局最後まで真相がわからなかった。