ソードアート・オンライン オルタナティブ クローバーズ・リグレット 2

 短中編集。ネタバレあり。
 「一章 骨休 旅籠夜話」VRMMOアスカ・エンパイアに新しく実装される予定のリゾートの温泉宿のテストプレイを頼まれた探偵。当初は依頼者である開発者の虎尾からナユタやコヨミを連れていくと嫌みをいわれそうだということもあって一人で行くつもりだったが、結局三人で行くことになる。
 VR内で列車に乗って、その列車の中である程度過ごさせる。VR空間なら即座に異動させることもできることだが、本当に旅行として楽しむ用のものであるから敢えてその移動時間を残したというのは面白いし、実際にそういうものがいずれでてきそうだ。
 ≪百八の怪異≫のNPCの挙動が自然だと評判が良い。しかしそれは技術的なものでなく、設定で自然に見せている。妖怪だからしゃべらなくても不自然に見えないし、不自然な挙動を見せても妖怪なのでその挙動も自然な行動に見える。
 運営の猫押しは、開発部はマスコットキャラが欲しかったが上へ意見具申すると色々と面倒な段階を踏む必要がある。そのため開発はその猫を固有名詞もつけずにしれっとだしておいて、人気が出たらマスコットに出なかったらただの背景として使う予定だった。
 そうしたVR技術でのアイデアなどの話や、開発の裏事情的な話が色々と書かれているのも面白い。そうした細かな設定がちりばめられているのはいいね。
 いざ温泉宿に着くと何故か従業員のNPCの姿が見えない。それを変に感じつつも無人の豪華ホテルで過ごしながら、その異常を探り解決することになる。そのシチュエーションはちょっと怖いが、VR空間という安心感があって主人公たちの心配をすることなく、謎解きを楽しめる。このVRでホラーという設定は、主人公たちに危害は加えられないという安心感があって好き。
 この事件解決後のパートでナユタがしばしば現実世界で探偵のもとへ通っていることが書かれる。
 「二章 茶番劇 化鼠之宴」コヨミとナユタは大量のカピバラの中にいるウォンバットを探すというイベントをこなしている最中に≪鬼動傀儡≫という聞いたことのないアイテムを手に入れる。攻略サイト掲示板にも書かれていない存在だということで引っかかる。そのため探偵は開発側のミスかもしれないと思い一応虎尾に報告をいれる。鬼動傀儡は実装する予定のアイテムだったが、色んな問題があって実装棚上げされた。しかしフィールドに隠しておいた一部の鬼動傀儡の隠し場所がわからなくなっていた。彼女たちが見つけたのはそのうちの一体。そういう説明を受けた後ナユタはゲーム内での鬼動傀儡の試験運用を頼まれて引き受ける。その後鬼動傀儡を使用して彼女らはカピバラ十二神将のイベントに挑む。今回は探偵の仕事でなく、普通にプレイヤーとしての話。
 「三章 鬼姫双紙 上」「四章 鬼姫双紙 下」探偵やナユタの兄の友人で、芸能事務所で働いている楢伏。その芸能事務所に所属している子役の真尋は、両親の離婚後も秘かに連絡を取っていた父が自発的に失踪して連絡が取れなくなったことを心配している。そして彼女の母は父とあまり関わりあいたくないようだ。そうしたことを聞いた楢伏は彼女の父親探しに協力する。ひとまず警察に相談したが、捜索は無理だと言われる。
 そうしたこともあって楢伏は友人の暮居(探偵)に相談に来た。しかし話を聞き父の写真を見て、探している父はアスカ・エンパイアの開発にいた人物だとわかる。彼女の父に関するヒントがアスカ・エンパイアにあると推測できたことに加えて、厄介な事情での失踪ではないかと予想できて、探偵に依頼してその情報が探偵たちのネットワークに共有されたときによくない事態が起きるかもしれないという懸念もあったので、自ら下調べを請け負うことになる。
 三章四章の冒頭での真尋の父のシーンは悪い予想をさせる不穏なものだったが、最終的にはハッピーエンドとなったのも良かった。
 「終章 夜空ノ海月」で書かれるクラゲ氏の知られざる献身もいいね。