イスラームの日常世界

イスラームの日常世界 (岩波新書)

イスラームの日常世界 (岩波新書)

内容(「BOOK」データベースより)
イスラームは、いまや第三世界にとどまらず地球的規模に広がっている。その世界観が、幅広い世代にわたって、十億もの人びとの心をひきつけるのはなぜか。三十年以上、世界各地の実情を見てきた著者が、日々のイスラームを、断食、礼拝、巡礼など最も大切にされていることや、結婚・職業観などから語り、その知られざる姿を明らかにする。


著者の実体験を交えて書いているので勉強っぽさというか情報の羅列感がないのがいい。
近代西欧的な人間は人間は強い、強くあるべきという性強説に傾いていき、日本の性善説では神の領域と人の領域がかなり重なっているので、ときには人間そのものが神になってしまうようなところがあるから人に忠誠を尽くすという考えがでてきやすい。イスラームでは性弱説で、人間は本来弱い存在であることを認め、人間と人間との約束は神の意思があれば履行されるとするので西欧のイエス・ノーの代わりに「神の意思あらば(イン・シャー・アッラー)」という表現が使われる。
サラート(1日5回する礼拝)の祈りは頼みごとをしない。頼みごとや惰性、習慣のような祈りのほかにはどういう形の祈りがあるのか個人的には実感がしにくいなあ。
モスクでの礼拝で全員一斉に祈るわけではない、ということに驚いた。『自分と神との間のもので合わせてするものではない(62P)』と書いてあってそれを読むとそれはそうだなと納得できるけど、今まではなんとなく一斉にするものだと思っていたわ。
ベールを付けることによって値踏みのような視線から避けて対等に付き合うことができる。発刊当時は知らないけど、日本なんかよりもずっと女性の社会進出に対する偏見はないという言説は最近ではわりとよく目にするよね。
『自分のからだも心も歳月とともにかわっていく、流動性のあるものだという認識も人びとのあいだに強くある。イスラームが持っている契約思想は、性弱説とともに、こういう考え方とも関連している。(中略)流動する心とからだをはっきりと認識したうえで、状況の変化に対処するために契約ということが必要になると考える(170P)』、流動性を認識するということは大事だよね。