神様のメモ帳 9

内容(「BOOK」データベースより)

春休み、僕の前に現れたのはアリスに瓜二つの姉、紫苑寺茉梨。「有子と一緒に暮らして、守ってあげたいの」紫苑寺家の当主が危篤で、面倒くさい遺産相続問題にアリスも巻き込まれそうなのだという。アリスに付き添って赴いた病院で、起きてしまった殺人事件。犯人だと疑われて拉致されたアリスを助け出すため、事件を調べていくうちに、僕はアリスの秘められた過去に触れ、紫苑寺家の闇を垣間見ることになる。そして宿命的に訪れる、探偵との別れ―ニートティーン・ストーリー、最終章。

 最終巻。アリスの家庭の事情がようやく明かされる。アリスが好きで読んでいたから、もう見れないのは寂しいが、物語はブラックで重い話が多くて読み終えるのに時間がかかっていたから、ちょっとホッともしている。
 冒頭、ヒロとテツが自分の方がいかにニート度が高いかと言う張り合いをしているのには思わず苦笑い。
 アリスの年齢が14、5歳というのは、もっと幼いとイメージだったので、ちょっと意外だったので一瞬驚いたが、すぐに彼女の食生活を思い出して納得した。それから、作中でも11、2歳程度にしか見えないと書いてあるから、イラストを見て抱いていた年齢の印象も間違いではないのね。
 祖父の死の危機による遺産相続の問題で、アリスは不本意にも実家に関わらざるを得ない状況に追いやられる。
 急に実家がアリスを引っ張り出そうとしてきたのは何事かと思ったら、長年別居している父の妻が遺産を虎視眈々と狙っていたから、外戚に紫苑時グループの金が渡るのを食い止めようと紫苑寺の人間が、愛人の子であるアリスや彼女の姉・茉莉を担ぎだしたのか。
 アリスがいなくなって、しばらく鳴海はぐずぐずと誰かが動いてくれないかと思うばかりで動けなかったが、彼女が植物人間状態だった父が死んだ(殺された)その夜何をしていたかがわかって動き出す。そして動き始めたら実に大胆に動くね。
 大金を費やし、コネを使って、大掛かりな作戦を展開して、舞台まで作って、最善を尽くして細部まで詰めるのだが、大詰めのところで最後はアリスを信じるという博打的要素があるのは、それもまた鳴海らしいな。
 紫苑寺螢一、アリスにPC技術の手ほどきをした人間で、アリスの天才にほれ込んでいる人。しかし彼女が死を選ぶという選択も美しいと認めているのは、天才を掌中におさめ、天才性を発揮するのを見るのもいいのけど破滅するところを見るのもまた良いと思っているのか、それとも彼女の自主性を強く尊重しているのかどっちなんだろうな。
 しかし平坂組、鳴海みたいに余計なことに思い悩まずに、シンプルに力強く助けようという思いを表現できているのはいいね、いい人たちだ。
 アリスの、紫苑寺の家族関係を最初聞いたときは、ひょっとしたらアリスは祖父の子ではと疑ったが、他の情報が出てくるうちに、父の愛人の死を知り、そうではないとわかったが、じゃあどういう出生なのかと思っていたら、真相が明らかになってそういうことか、近親での忌み子だとはわかっていたのだが、最初の充て推量が違うとわかって以降も、あれ違うのかと思ってばかりで、他にあれかもしれんという推測もでききなくて、そこまでは考えが及んでいなかったのでちょっと悔しい。しかし紫苑寺の人間は業が深い人間ばかりだな。
 エピローグ、鳴海は小説家やっているようだが、かつてのアリスたちと体験した事件についてを描いているようで、それ以降のオリジナルをやれるのかなんか不安になる。ワトソンだって、本業はホームズと事件について書くことでないわけだから、副業なら安心できるのだけど。しかし、まあアリスと再会できたようでなによりだし、彼女と再会できたならどうとでもなるという思えるので、本当に良かった。まあ、最後に彼らのいちゃいちゃを見たい気持ちもないわけではないけどね。
 あとがきの中に、シリーズの作中で起きた事件の時系列での表があるのはちょっと嬉しいな。