狼王ロボ シートン動物記

狼王ロボ シートン動物記 (シートン動物記) (集英社文庫)

狼王ロボ シートン動物記 (シートン動物記) (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

人間の仕掛ける罠を嘲笑うかのように逃れて、コランポー一帯の牧場を荒らしまわる狼王ロボ。しかしロボにも弱点があった…。自然の尊厳と脅威を体現したかのような狼の物語の表題作以外に、孤独な森の王者となった熊の生涯を描いた「灰色グマの伝記」、小さな妖精「カンガルーネズミ」、威厳に充ちたシカを狩猟する少年の物語「サンドヒルの雄ジカ」を収録する。

 実は今までシートン動物記を読んだことがなかったのだけど、少し前に読んだ「捕食者なき世界」でロボの話がかなりノンフィクション的な作品だということを知り、にわかに読みたくなって今回初読み。
 この本には「狼王ロボ」「灰色グマの伝記」「カンガルーネズミ」「サンドヒルの雄ジカ」の4作品が収録。一応どれも体験や、聞いた実際の話をもとにしているようだけど、フィクションが混ぜられている度合いに濃淡があるから、なんかフィクションと読めばいいのか、ノンフィクションとして楽しんでいいのか戸惑う。いや、普通に物語としてリアルなフィクションくらいなスタンスで楽しむのが吉なのかもしれないが、個人的にはロボの話が実際の話をもとにしたノンフィクションと聞いて、ノンフィクション的なもの期待してこの本をひもといたということもあって、そう感じてしまった。
 「狼王ロボ」表題作。ロボを捕らえる際に使った罠や、罠に捕らえられたロボやブランカの写真が載せられている。有名な作品だけど、40ページ弱と案外短い作品なのだね。5年以上にわたり多くの農場の家畜を食らったロボたち、莫大な賞金が掛けられる。普通強大な狼なら、多くの配下を連れているが、たった伴侶のブランカを含めてたった5頭しか連れておらず、どれもが立派な体格をしていた。力の強大さや頭の良さで多くの家畜を屠り、その地の牧場の人などからの悪名が高く、多くの賞金がかけられたロボ、美しい白狼ブランカ、足の速い黄色の狼などキャラが立ってんなあ。
 いくつか置いておいた毒餌、食べずに設置した著者を馬鹿にするように一箇所に集めていたなどというエピソード見ると、知覚優れているうえ、そうした小ばかにする振る舞いをするとは本当に頭いいのだな。
 伴侶であるブランカを殺すことでロボをおびき寄せて殺そうとする、ブランカがロボの先へ駆け出すなど勝手が許されているところを見て、妻だと気づき、巧妙に罠をはってロボを捕らえることは難しいかもしれないが、ブランカなら捕まえられるかもしれない罠を設置。そうしてブランカを処刑。彼女を取り戻そうとしたロボは悲しげに吠える。ブランカの死体を使った血の痕跡を作ったことで、あの巧妙に罠をすり抜けていたロボがたやすく罠にかかる。牛が騒いでいる場所を見に行くと、ロボのすべての足に鉄の罠がついているところを発見。そしてロボも捕らえられ、処刑とあいなる。
 「灰色グマの伝記」100ページ超と収録策の中で一番のボリューム。訳者の解説を見るとその中のいくつかのエピソード(どの程度かはわからないが)は事実なんだろうけど、いちばんフィクション寄りの作品。この作品で特に顕著だけど、動物(クマ)の感情を人間的なものとして描き、それを断定的に書いているのがちょっと鼻につくな。ある程度、わかりやすく擬人化したクマが主人公の純粋な物語とか、そうでなくともそのクマ視点で書かれているというのでもないのに、そうした書き方をするのは個人的には苦手だな。まあ、趣味・好みの問題だけど、そういうところをもっと「〜だろう」、「〜かもしれない」と濁してくれたら楽しめただろう。
 「カンガルーネズミ」カンガルーネズミの生態の観察。地中の巣まで入り組んだ迷路のようなものを作っていて、ひまわりの種をためた貯蔵庫が奥まったところに2つあるというのは面白い。こういった動物とかの生態を観察して書いた文章、あまり読んだことないけど案外面白いな。
 「サンドヒルの雄ジカ」立派な雄ジカとの追跡行、知恵比べ。追い立てている興奮もあったが。しかし最期にシカの目を真正面から見たことでどうしても撃てなくなってしまう。解説によると実際はこの小説の元となった体験ではそのシカ殺したみたいで、それで美しいシカを殺した後悔からしか殺さなくなったということのよう。