はい、泳げません

はい、泳げません

はい、泳げません

内容(「BOOK」データベースより)

超がつく水嫌い。小学生の時にプールで溺れて救急車を呼ばれた。大人になっても、海・湖・川などたくさんの水を見るだけで足がすくむ。なのに、なぜか水泳教室に通う羽目に。悩みながら、愚痴りながら、「泳げる」と「泳げない」の間を漂った2年間。混乱に次ぐ混乱、抱腹絶倒の記録。史上初、“泳げない人”が書いた水泳読本。

 kindleで読了。
 水に怖さを感じ、泳げない著者。そんな著者が泳げるようになるために泳げない人向けの水泳教室に入る。そこで高橋桂コーチと出会い、彼女のさまざまな表現を使った指導を受けて、その言葉に困惑しつつも徐々に泳げるようになっていくところが書かれる。そうした泳げない人が泳ぎについてどんな風に感じているのかが書かれている。泳ぐことについてあれこれと理屈っぽく考えているのが面白い。
 ダルマ浮きという体を丸めて体が水に浮くことを実感することで水への恐怖を克服するトレーニングに対して、身体が何処にもついていない。そんなことは陸上生活では絶対ないから、怖ろしいと感じることが書かれる。そんな風に水への恐怖だったり、泳ぐことの難しさ、わからなさについて色々と書かれている。
 そして一般的な水泳のテキストで泳ぎのことを説明されても、ピンとこない。
 しかし桂コーチは、泳げるようにするために色んな言葉を用いて浮くこと泳ぐことのコツを話してくれる。『一つの動作について、十通りくらいの表現はあります。』(N1171)というのはすごい。そうした多彩な表現で、泳ぐための身体の動かし方を伝える。その言葉を読むと水泳という世界も奥深いものなのだなあと今更ながらに感じる。禅とか剣術修行みたいな感じだ。
 真っ直ぐに体を伸ばすとつま先だけが下を向く。それを真っ直ぐにするためには『「力を抜いて膝を落としてやればいいんです。膝が少し下に落ちると、つま先は水面上で真っ直ぐ後ろに向きます。でも今度は膝が曲がってしまうので、また真っ直ぐに伸ばさなくてはいけません。そこで膝を真っ直ぐに伸ばすと、足全体が下向きに沈んでしまいます。横から見ると”へ”の字になるんです。こうなると腰が曲がっていますね。ですから今度は、腰を真っ直ぐに伸ばすんです」
 人の体は完全にまっすぐには伸びない。そこで、たるみをリレーするように「真っ直ぐになろう」とするのである。(中略)
 要するに水泳とは、こうである。
 伸びる、……伸びる、……伸びる、……
 (……部分は何もせず力を抜くだけ)』(N797,808)水の中でジャンプすることで進む。こうした指導の表現を読んでいるのだけでも面白い。
 足はほとんど動かさなくていい、身体を動かしているうちに足が開いてくるからそれを閉じれば良い。それだけでいい。その言葉がきっかけとなって泳げるようになる。
 そして泳げるようになった著者は、義弟とプールに行き、習得した綺麗な泳ぎ方を見せてちょっと自慢する。
 巻末には著者と高橋桂コーチ、そして同じスイミングスクールに通う作家の小澤征良さんとの鼎談が収録されている。