一つの大陸の物語 下

内容(「BOOK」データベースより)
トラヴァス少佐を乗せた軍用機が突如爆発。制御を失ったその機体は、人里離れたルトニ河に墜落してしまう―。その頃ロクシェ首都では、消息を絶った少佐が麻薬犯罪に関与したという疑惑が持ち上がり、過剰とも思える証拠が次々と明らかになっていくのだった。一方、やんごとなき事情により長年勤めた空軍を追われることになってしまったアリソン。将来に絶望したリリアを新聞部メンバーが助けようとする中…アリソンは「わたし、再婚するんだ!」と陽気に語るのだった。しかも、相手は既に死んでしまったはずのあの人で―。胸躍る“彼らの物語”ここに完結。

 ついにこのシリーズも最終巻。トラヴァス少佐もヴィルに戻り、アリソンと暮らせるようになるというハッピーエンドで本当に良かった!今後も皆の未来にご多幸がありますように!
 上巻では「リリアとトレイズ」や「メグとセロン」といったアリソンたちの子供世代のメンバーが中心になって話が回っていたが、下巻ではトラヴァス少佐/ヴィルのシリアスな話が中心となり、彼を匿う昔(から)の友人たちとの交流が描かれている。
 カラーの結婚式でのアリソンの満面の笑み、本当に若々しく少女らしく見えて、喜びに満ちているのがわかっていいね。しかし、大人組のイラストはどれもこれも格好良くて素敵だな。
 トラヴァス少佐、本で一回飛行機の操作を読んだからくらいで、不器用ながらも自分が生還できるように着地を制御できたというのはすごいな。あと、墜落後に何か役に立つものがないか調べていたとき自分のアタッシュケースの中身を確認して、『中身は、とても役立った『初等操縦マニュアル』』(P26)と地の文でいっているのは、笑わざるをえないわ。自分が生き残るために必要なことを怪我しながらも、非情なことでも1つずつこなしていっているのは、その淡々さが格好いいなあ。
 「メグとセロン」にでてきた、ラプトアからの留学生が再登場。彼女まで再登場するとは思っていなかったよ、それと彼女に「ラプトア共和国の学校の制服を着ているね」と話しかけたのは、ヴィルだったということに、今回初めて気がついたよ。
 しかし長年会っておらず、事情がわかっていないのに即座に彼を隠して治療を受けさせようとした、学生時代の旧友サイラスは格好いいね!イラストを見ても、ダンディだしね。そして、そうした行動をとった彼に対してでヴィルは最大限の信頼を示し、ヴィルが今までの全てを普通に友人に話すように打ち明けた、そのときのサイラスの驚きと引きつった笑みがうかがえるような反応にはニヤリと口角があがってしまう。トラヴァス少佐/ヴィルの事跡を知って驚くエピソードはあったらニヤニヤしながら読めるだろうな、と思いつつ賞賛されない後ろ暗いことも多かったろうから、そういうのはみれないと諦めていたが、最終巻になってみることができるとは思わなかった、いやあ最後に見ることができてよかったよ(笑)。
 イクストーヴァの王宮にヴィルを置いて、サイラスは帰途に着くが、帰る前にとある方角を見て、あいつには戦いが残っている、と格好いい台詞を言うが、地の文でその方角が全然違っていたと書いてあり、その微妙なしまらなさには笑う。だけど、それは学生時代もこうだったんだろうな、というのがよくわかるような場面で、みていて好ましいが。
 「リリアとトレイズ」のときに語られていた、水陸両用機がまさか伏線となって、最後の最後に登場する機会があるとは思わなかったよ(笑)。
 しかし、トラヴァス少佐強いなあ。相手のコーネリアス元中尉も最後の敵が階級が上で強かった、というのもあり満足そうに逝くなあ。しかし彼、なんかわざわざ最終巻にでてきて、名前が付いているとなると、以前に登場して来たキャラなのかもしれないが、うーん、ちょっと覚えがないなあ。
 アリソン、不名誉除隊くらってもへこたれないのが凄いわ(笑)。「そんなこと」よりもヴィルと再び暮らせる楽しみのが勝っているのだろうが、結局彼らは今後どんな仕事するつもりなんだろう、本当にイクストーヴァにいくつもりなのかな?まあ学生時代はヴィルはアリソンに養ってもらっていたから、今度は逆にヴィルが普通の職業について働いて、アリソンが主婦になるのかもしれないな。しかし、リリアに再婚相手はこの人と、ぼやけたヴィルとの2ショットの写真を指さしているシーンのイラストのアリソンは本当にいい笑顔で素敵だ、そしてリリアとの表情の差異(笑)。
 カルロと付き添いでカルロの先生が結婚式に招待されているけど、そのカルロの付き添い先生が首都の揚げ菓子を食べたときに見せた『「いいから、せんせーも食べてみろよ」「じゃあ少しだけ……。――うめぇ!もっとよこせ」』(P277)という反応は、先生のおどけっぷりに笑う。
 新聞部の面々がマティルダ王女に挨拶されたときのニックの『うーん……なんということだ……。僕は今、歴史を目撃している。』(P306)という静かに混乱しているようなコメントに笑う。そしてメグミカの侍女になりたい、そのためならセロンとの結婚をやめると言ったことへの、5年後の新聞部の面々の一言コメントは面白い(笑)。
 キンスキー少佐=ルネ(「アリソン」の1巻で出てきた)というのは、まさかこんなところの人物まで再登場するとは思わなかった!きっと彼のおかげで、トラヴァス少佐の謀殺を図った人間や本当に麻薬売買をしている人が逮捕されるだろうから、今回の事件も無事終結しそうなので安心した。
 あとがきで、いずれまた同じ世界観の小説をだすかも、という含みを持たせてくれたが、もし同一世界観の作品が出るならば、何年後だろうが、発売に気づけばきっと直ぐに購入し読了するだろう。