理想のヒモ生活 5

内容(「BOOK」データベースより)

カープァ王国最大の港、ワレンティア港に突如現れた大型帆船。それは、北大陸ウップサーラ王国から予定外に流れ着いた船だった。ウップサーラ王国第一王女フレア・ウップサーラと名乗るその少女は、カープァ王国との国交を求める。王都を離れられない女王アウラに代役として、ワレンティアの街へ跳ぶ善治郎。一方、塩の街道では、プジョル将軍の指揮の下、大規模な山狩りが始まっていた。プジョル将軍の的確な指示の元、徐々に追いつめられていく群竜達。追いつめられた群竜達は、西の山へと逃げ込む。塩の街道の西側は、いくつかの山を挟んでワレンティアの街に続いている。ワレンティアでフレア姫一行と対面を果たす善治郎だったが―。

 ブログに感想あげたものかとばかり思っていたら、まだ上げていなかった。なるべくライトのベルとかの感想は(この本の感想のようにうっかり忘れていないかぎりなるべく早くブログにあげているので、あやうく今月末に発売する6巻と感想が前後するところだったわ(笑)。

 前巻まではweb版と同じ展開で、巻末に書き下ろしの短編が一つ付いていたのだが、今回も書下ろしの短編はあるのだが、本編はweb版では未掲載の内容で、展開も大きく変えてきた。そしておそらく今回からはウェブ版と分岐したストーリーとなるのだろうか。ウェブ版には載せなかったけど、こんな出来事もあったとかにするには今回かかれた事件の顛末は大きな影響がありそうだからね。でも、ウェブ版では時系列的には、ここまで行っていないから、これから圧縮した形などでこの話が掲載される可能性もあるっちゃあるのか。
 今回は善治郎が内助の功でなく、本人はイヤイヤで偶然の結果だが、表舞台・宮廷の外で活躍するなど、普段とは趣のちがう話だったけど、これがまた面白いんだ。このシリーズで一番好きな巻かもしれない。
いや、いつもの内助の功で色々せせこましく、あれこれやっているのも嫌いではないけど、でも少し飽きが出てきていたからな。
 善治郎が日本から持ち込んだ台車を、王家出入りの商人が興味深く見ていたことは以前に描かれていたが、今回の冒頭ではそれが早くも製品化されて、一般でも使われていることが書かれているので思わずニンマリとさせられる。
 航海をする船舶、「真水化」の魔法があるため、われわれが住む世界の過去の時代とは航海の快適度が異なることが書かれていて、そのような魔法があることでの世界間の差異を見せてくれる描写は好きだな。
 北大陸が技術で優れているというのは知っていたが、ガープァ王国の或る南大陸は魔法力に優れているのね。まあ、北大陸では技術が高まったことにより魔力の重要性が薄れた結果として起こった事態のようだけど。
 善治郎は妻アウラは否定していたが、王家魔法を用いることでネットに接続できる可能性があると思っているようで、わざわざそのことが書かれているということはいつになるかはわからないけど、今後新たに必要となった有益な情報を得るという展開もありえるかもしれないということだと思うので、その可能性があるというだけで色々と想像を掻き立てるな。
 今回はガープァ王国の代々王が持ち、現在アウラが有している公爵領に、南大陸との直接貿易を狙う北大陸の王族が船長の船が漂着して、それを王家の力を増す好機と捉えて、貿易による利益を王家が独占することを狙って、善治郎を現地に派遣して、「お飾り」としてトップに据えて交渉にあたる。
 しかし初めて王宮の外に行くということで、普段の冷房のある環境と違い暑さに耐えなければならないのは、想像するだけで辛そうだ。
 幕間のプジョル将軍とチャビエルの群竜討伐のパートがここに来て、本編と交わることになるとは予想外だ。
 しかし群竜は人間よりもずっと強い動物であるというのに、力で勝てるのはすごいなプジョル将軍。それに加えて前線で味方のフォローしつつも他の部隊の行動を、後ろで見ているチャビエルが気づかないことまでしっかりと見えているとは、こうした戦場での彼を見るとすごく頼りになるなあ。政治的には野心を隠さないお人なので、いまいち好きにはなれないのだけど。
 おっと、北大陸からの船に積まれていた山羊を入手できて、牛乳の代用品となるから、地球の食べ物が結構食べられるようになりそうなので、よかったね。
 北大陸の王女殿下、航海中口の悪い船員たちの間で過ごしてきたから、ぽろっと下品(シモネタ)な言葉が出るなど、ちょっと抜けているのかなあと思いきや、国では魔力が弱まっているため魔力の強い南大陸の人間を交易品として持ち帰ることを狙っていたなど黒いな。外見は好きな感じの見た目だったから、そんな発言が出て、驚くと同時に引いてしまった。まあ、善治郎が意図してか否かは知らないが(彼女のことを警戒はしているようなので、彼女の言葉になにか怪しい意図は感じ取っていたのだろう)釘を刺したおかげで、人を持っていかれるなんて事態は避けられたようだが。
 群竜襲撃が起こったとき善治郎はそれについての情報を送り、また情報がほしいという意図で飛竜で文書を送って、自身はすばやく事態収拾のための行動に移っていたが、アウラは指示を待っていると思い、王宮に群竜がなわばりを放棄して移動したことを王宮に伝えに行ったチャビエルを責任者に「推薦」した。しかし既にラファエロを群竜討伐軍の据えていた。そのため既にラファエロマルケスを責任者に据えているのに、善治郎がこの提言を素直に受け入れたら、アウラはワレンティア公爵でもあるとはいえ、ワレンティア公爵全権代理として善治郎を派遣して、一時的にワレンティア公爵でなくなっていた。そのためワレンティア公爵全権代理である善治郎の人事に王(アウラ)が口を出す、地方領主への独立件への介入という形になってしまい、女王(アウラ)の推薦を王配(善治郎)がはねのけたら問題で、善治郎は王配して権力を振るわず、政治に関わらないことで、男系社会で王家の血筋を持つ王配である自身の発言力が上がることで、女王と別の派閥ができないように、自分が女王を盛り立てるようにすることが目的なのにその目的に反するため(そのために無能アピールをしてきたのに、いや実際何ができるかといわれても)、それもできない。そこで彼は苦肉の策として、自分が総司令官として後方だが戦場に出て、チャビエルに8割の軍勢を預けて実質的な軍事のトップに見える立場にして、ラファエロは参謀としてチャビエルと建言上同格に見える立場にして自分の居る護衛部隊の指揮を任せることで最低限の実務上の指揮権も持たせた。
 そんな善治郎の内心の苦しさ(活躍しなければならないのを不本意と思っていること)をラファエロが良く理解しているのは面白いな。そして彼の群竜襲撃時から、今回のそうした措置を見て、彼が十分な理性と知性、決断力を持っていると判断している。ラファエロは冷静に判断しているようなので、それが正当な善治郎の評価なのだと素直に思えて、彼が想像以上に有能だと知り、ちょっと感心する。しかしラファエロは聞き上手で、命令したことに対して完璧な報告を持ってきて、命令者をあたかも自分が有能であるかのような気にさせるほどの有能さを持つ文官とは、聞きしに勝るすごい人だ。
 本来彼はガラス製造のためにこの血で貝殻をひいた粉を水と反応させて消石灰を作っていたが、それを群竜は臭いで行動するということで、臭い消しとして活用して、また群竜の死体から皮や膀胱を取ってそれをこすり付けることを提案して、それを実行することとなった。そうやって自分たちの有利な場所へ誘導することが成功したため、彼らは大勝利をあげる。彼が作った物品や覚えていた知識が活用されて、群竜たちを殲滅できたという展開はいいねえ。異世界チートではあるけれど、他のweb小説とかにあるような国を大規模に変えるということではなく、こうやって間接的な、というか一場面限定での活躍であるのがリアルに感じるからすっごく面白かった、こういうのがもっと見たい。
 巻末の毎度おなじみの侍女たちの話は、アマンダ侍女長がアラビア数字を習熟して、時計を見ることができるようになって、時間の管理がハードになったことに恐れおののいているのは笑えた。