理想のヒモ生活 10

 ネタバレあり。
 ジルベール法王家の治療術師をカープァ王国に送る必要もあって善治郎は今回も双王国に向かう。その頃フレア殿下が王国の気候に合わずグロッキー状態となっていたので、善治郎の側室となることが内定しているフレア姫のために双王国で涼をとるための魔法具を購入することにもなった。そしてフレアは大陸間航行をより安全にする魔法具が欲しいということで、彼女も双王国に行くことになる。
 前回で双王国編一区切りかと思っていたので、こう間をおかずに再訪したり、今後も行き来することになろうとは思わなかった。
 今回まだ色も透明でなく歪んだ不完全なものであるがビー玉ができた。以前から取り組んでいたことなので、不完全ながらもようやくできてくれて嬉しい。フランチェスコ王子にその試作品を見せると、形が綺麗な球ならば不透明でも使えるが残念ながら使い物にならないといわれる。ただ『この一粒はかなり惜しいんですけどね』(P72)と言っているように、あと一歩のところまで来ていることがわかる。
 善治郎は前巻でブルーノ王とジュゼッペ王太子へ怒りを抱いて、今も持続している。アウラの助言も得て、大事な息子をダシにすれば譲歩させることのできる情の人と認識されてしまったから、利益を度外視して不快感を見せることで感情で判断する人間だとアピールする。『大事な存在に手を出されれば、利益を度外視して噛みついてくることがあるとなれば、簡単に手出しはできなくなる。』(P63)それでブルーノ王やジュゼッペ王太子が頭を悩ませているのはいい気味。しかし今後も彼らと少なからぬ友好的な接触を持つ必要がありそう。
 善治郎は双王国訪問の一番の目的だったジルベール法王家から治癒術師に来てもらうことを無事達成する。そして双王国の四公家の内の二家の令嬢シャクリヤ、タラーイェがそれぞれ魔法研究、商談のためにカープァ王国に来ることになる。
 フレア殿下は双王国の凪の海という来た大陸から渡って来た時に使っていた国宝級の魔法具を譲られる。ジュゼッペ王太子はフレア姫の生家であるウップサーラ王国への友好の証として送ることで、ウップサーラ王国と北大陸を席巻する教会勢力との間に亀裂を生じさせる狙いがあるようだ。だいぶ先を見据えた布石。
 善治郎が不快感を示したのにブルーノ王らの対応が前回と変わらず友好的だったり、フレア姫への対応を見てアウラ女王は彼らが何かきな臭く、私にも見えていない動乱の種に気づいているのではないかと勘付く。そして場合によってはあの王や王太子と和解しなければならない。双王国からフレア姫への贈り物で後悔も安全になったので、女王は善治郎が北大陸に一度行って行き来できる体制をつくれれば最良だと考える。しかしアウラ女王本人も自覚しているように『何だか最近、たどり着く解決策がことごとく、婿殿に無理をかけるものばかりになっているな……』(P236)そして今巻の終わりで、女王から善治郎にその提案がなされて終わる。新しい展開を作るために別の国や場所へ行くのがいいというのもわかるけど、この世界の常識に疎い彼に色々と託したりするのは危なっかしく思ってしまう。
 エピローグで善治郎が正式に公爵になることになり、それに伴って王配護衛騎士ナタリオが新設公爵家の騎士のトップとなる。大戦後騎士の出世機会がなかなかないので小規模とはいえ王家の騎士団が設立されて、ナタリオはその人選での発言権もあるということで、『一介の騎士家に過ぎないマルドナド家に定員の数十倍の騎士達が押し寄せ、てんやわんやの騒ぎとなるのだが、それはまだ先の話である。』(P280)その話は面白そうなので、彼視点でそのことを書いた短編とか読んでみたくなった。