理想のヒモ生活 9

 ネタバレあり。
 冒頭の王国に残るアウラのパートで女王としての子どもたちについての考えで、長男のカルロス(善吉)は将来苦労しないように、後宮にしかない電化製品のある生活にあまり慣らしすぎないように注意している。そして今懐妊中の第二子が女だった場合は電化製品の扱い、その保全を担当する一族にしていければいいなと考えている。
 シャロワ・ジルベール双王国に滞在する善治郎は、シャロワ家の王位継承に関するゴタゴタに巻き込まれる。善治郎をダシにした。他の大国の王族の前で宣言したことで部下が異論を挟むことが難しい。彼自身(その血)が何かしらに利用されて面倒事になるのではないかと危惧していたが、こういった形での厄介事か。
 その謁見が終わった後、すぐに書状がくる。その時の善治郎がインクが渇いているのを見て、『時を逆しまにするほどの迅速な対応、痛みいる』(P38)と少しとげのある切り返しをしたのはいいね。
 善治郎は目的(アウラ出産時の万が一に備えてのジルベール家の治癒術士の派遣)を達するためにも、王位継承に少なからず首を突っ込まなくてはならなくなった。王位継承という大きな問題なので色々と調べなければいけないことも多いということで、今回は双王国の成り立ちやら、現在の国内事情などについて書かれる。
 善治郎は帰国してきたフランチェスコ王子の忠告に従って、ラルゴ王子に会ったことで今回の件は何を主目的にしていたかがわかる。長年別血統を保っていた両家を合体するという目標を持つ完全融合派がいて、王も王太子もその一派。フランチェスコ王子のいびつな家族関係もラルゴ王子との会話で明かされる。
 その王家の厄介事を見事に機転を利かせて、新しい魔道具の作成することでその問題を解決した善治郎。その新しい魔道具の作成についての話も面白い。
 しかし、その双王国の国内問題(王位継承問題)の解決のために作った魔道具が、かの国にもたらすであろう利益も軍事的な有用性もあまりにも大きなもので、ほんの少しの約束をするために他国にそんな便益をもたらしてしまった。『すでに善治郎のブルーノ王・ジュゼッペ王太子に対する感情はマイナスに振りきれていた。』(P174)というのにその相手に利益をもたらしてしまう無念さ。
 しかし五章最後の王と王太子の会話で、北大陸の「教会」についての話が書かれているが、もし今後それが敵対する展開になったら、今回の縁とか新魔道具とかが活きてくるのだろうか。そう思って、少し割きれないような思いを鎮めよう。
 ラストでアウラもいっているように、カルロスを使った脅しを有効だと思わせたかもしれない。それに関してはアウラがフォローをするつもりで、何とか傷は浅くすんだといえる。そして今回の件でアウラは『善治郎には、自分の子供達が生命の危険にさらされた場合、子の命をもチップに換算した冷徹なパワーゲームに参加できる度量はない。』(P258)ことを認識して、それを自分がフォローしなければなと決意を固める。身内の安全に関することでは、彼はそれまで見せていたような女王の忠実な代理人を十全にはこなすことはできないことがわかる。