理想のヒモ生活 8

内容(「BOOK」データベースより)

ジー辺境伯領から無事、王都に帰還を果たした善治郎を待っていたのは、妻アウラの『妊娠の可能性大』という吉報であった。妻アウラの第二子出産時に、治癒術士を連れてくるため、善治郎は今まで以上に『瞬間移動』の練習に励む。また、王都にやってきたガジー辺境伯とその娘ニルダは、改めて『名簿』にニルダの名前を登録し直す。その頃女王アウラの元には、後宮侍女の第二次募集用紙が到着。その中には、ニルダ・ガジールの名前もあった。ものづくりも順調に進み、ビー玉の製造計画もついにスタート。他にも方位磁針の開発、蒸留酒の量産も本格開始。そして、善治郎はついに『瞬間移動』の発動に成功するのだが―。


 前回から大分間が空いて、別の文庫でも本を出されたようなので、毎回楽しみにしているシリーズだけど今後も出てくれるのかどうか、ちょっと心配していたので新刊が出てくれたことが嬉しい。
 ネタばれあり。
 今回はフレア姫の帰還と、善治郎が双王国へ顔つなぎに行くことになって向こうへ到着したところまでが書かれる。今回は前回までのガジー辺境伯領での話とかフレア姫の話がひと段落して、善治郎が他国へ初めて行くことになってそこで外交することになるが、今回は善治郎が双王国に着いてすぐのところで終わる。そうした前回までの行動の影響(蒸留酒やガラスの進展も含めて)が書かれた後に、新章突入のプロローグみたいな感じなので、今巻は繋ぎの巻という印象。それでもガラスなどの進捗について書かれていたり、フレア姫との会話で土地の気候の違いによる認識の違いなどの話もあって面白かった。
 王都へと帰ってきた善治郎は、妻である女王アウラから懐妊の知らせを受ける。それを聞いた善次郎は、以前から考えていた出産時の万が一に備えて『瞬間移動』の魔法を習得することに熱心に取り組む。そして無事に習得。
 現在のまま女王が妊娠中に政務を回すのは将来的に破たんする可能性がある。そう感じたアウラは、今まで権力分散を嫌って置いていなかった元帥や宰相を据える覚悟を決める。
 そうすると発言力が低下するから、会議などでの味方を増やすために善治郎に爵位を与えて、それを少しでもましなものにしようとする。それは当然善治郎への負担となるので、秘書官がいつものようにそのことについて釘をさす。
 ガジー辺境伯の娘ニルダが貴族名簿に載っていなかったこと、王家がもつ貴族名簿に欠落があることを公表して、先の戦乱期に貴族登録をした欠落の疑いのあるものは1年以内に名簿登録の際の書面を提出すれば、ちゃんと当時から貴族であったことを認めると宣言する。
 王都へ来たガジー辺境伯は、前回の善治郎の動きがニルダを庇うためだとわかって深く感謝する。そして辺境伯は王都で従兄妹であるアマンダ侍女長と対面する。そしてニルダの姉の結婚でニルダの教育するのにふさわしい教師を探す必要があることを説明し、ふさわしい人物がいないかを尋ねる。辺境伯からいろんな条件を聞いて、侍女長は彼女を後宮に入れて侍女にできれば、自分が教育することができるという。
 そうしてニルダを侍女に推薦するガジー辺境伯。名簿の欠落を示すためとはいえ人々の前で彼女がそうだったことを話して、ちょっと曰くつきになってしまった。だから、箔付けのためだろうと思って、それならば埋め合わせがいるなと採用。そうした目的もあったのかもしれないが、流石のアウラや秘書官でも主目的が教育だということは看過できず(笑)。
 フレア姫の船の修復状況を聞いた善次郎は、フレア姫たちの母国にはない雨季での修復見積もりが遅れる。そのことで船員たちが遅れを深刻にとらえて、当初の予定通りにするために雨天でも修復作業を強硬していることを危惧する。そしてそのことをアウラに伝えて、善治郎やフレア姫たちは瞬間移動の魔法でワレンティアへと移動させる。このときにはじめて魔法での都市間移動を体験し、血統魔法の有用さを実感するフレア姫。そして善治郎はこの時に初めて自らの魔法で都市間移動を体験して、前回のワレンティアへの旅路との違いに改めて驚く。
 酷暑期の熱気を体験したフレア姫は、一生これを体験することになるのかと結婚を申し込んだことを少しばかり後悔する。
 妻アウラの出産時にまさかの事態が起きた時のために、治癒魔法という血統魔法を持つジルベール法王家に来てもらうための顔つなぎに双王国へと赴く善治郎。しかし善次郎のこの世界から地球に来た先祖の一方は双王国のシャロワ王家である。そのためシャロワ王家が彼を取り込もうとするだろうと、アウラは夫が出産を控える自分のために、夫自身(や国)の不利益となるような不用意なことをしないことをしないように釘をさす。
 双王国での善次郎の案内役を務める侯爵家の息女ルーシー。血縁的にはシャロワ王家の出で、王族に舞い戻って、血の繋がる父母を父母と呼ぶために善治郎と結婚することを狙う。あざとく、そんな思惑のある少女をつけるシャロワ王家の思惑はいずこにあるのだろうか。
 まあ、なんにせよシャロワ王家は善次郎に何か仕掛けてくるだろうから、善次郎には相手にやりこめられずに、それを乗り切って欲しいわあ。
 毎回楽しみにしている巻末の短編「主と侍女の間接交流」は、今回は電気整備。善次郎が持ってきた小型水力発電機が侍女たちによって整備されていることがあかされ、そして新しく後宮に入ってきた侍女3人の顔見せがあり、そしてここでのレギュラーの3人の侍女との交流が少し描かれる。