理想のヒモ生活 6

内容(「BOOK」データベースより)

プジョル将軍は、女王アウラにガジー辺境伯家長女ルシンダ・ガジールとの結婚許可を申し出る。中央の有力貴族であるプジョルと、地方の大領主であるガジー辺境伯家の娘の婚姻は、本来ならば許可できないもの。しかし、女王アウラは、その婚姻を認める。結婚式会場はガジー辺境伯領。王都を離れられない女王アウラの名代として、善治郎がその式に参加することに。そんな中、王都にフレア姫一行が到着する。結婚式の話を聞いたフレア姫は、善治郎のパートナーとして、自分も式に出席したいと申し出る。つまりそれは、フレア姫から善治郎に向けた事実上の求婚―。善治郎の答えは?そしてアウラとの夫婦関係は!?

 前巻よりweb版とは大きく違う展開に舵をきったが、web版は小さな個人・夫婦の物語がメインになりそうな感じだが、書籍版のほうはどうも善治郎は国家レベルの大きな物語、政治と関わるとなりそうな感じだな。
 読む前はフレア姫は初登場した前回もそうだったけど、キャラクターのうち――もちろん女性の――もっともありえなさそうなキャラを新たなヒロインに見せようとあおりをいれているのは何なんだろうと思っていたので、まさかまさかの展開だった。
 だって善治郎は政治的なややこしさを家庭内で考えなければならないという事態は嫌うだろうし、フレア姫は本人の性質的にも立場的にもそうしたところからは引き離せないし、自分の国の国益を大事にする人間で、結婚してもカープァ王国の利益とかみ合わない行動をとることが間違いなくあるだろうから、そうした善治郎は面倒臭さは回避するだろうし、フレア姫もわざわざ王配の側室となる理由もいまいち考え付かないなと思っていたから、彼女と本当に結婚することになりそうな展開は正直にいってとても意外だった。
 冒頭の結婚指輪の風習が根付きはじめているとか、蒸留酒が職人の手で新たに作られるようになったとか、あるいはワレンティアの白砂と貝殻で作った消石灰でガラス製造に大きな進展など、そういう描写はいいね。別世界・文明の文物が新たに根付いていく様をみるのはなんとなく楽しい。それに善治郎が持ち込んだ風習や物が使われるようになっているのを見ると、彼自身もこの世界に根付きはじめているという風に感じられるからなおさら。それに蒸留酒とか、この国になかった(どうやら北大陸にはあるようだが)なものが作られるようになるということは、善治郎的にも生活の細かな不便・不満が取り除かれることにも繋がるからいいことだろうし。
 日本から持ち込んだ電化製品などに対して未来代償の魔法具で魔力貯めて定期的に時間遡行をかけて、壊れないようにすることが決まったということは、今後ともそうした電化製品が使えることと決まって、壊れて生活が不便になることへの心配をしなくて良くなったので、心底あー良かったとほっとした。
 ラファエロはワレンティアでの善治郎の行動を見て、善治郎が一部宮廷人で囁かれているような「操り人形」ではなく、「女王にとって最善の」言動・行動を自分の意思で動いていたという事実を知り、カープァ王国では見られないタイプ・価値観の人間だからこそ、どこに逆鱗があるのかがわからないので下手に距離を詰めないことが得策と考える。そして善治郎がいるから女王はもう一つの身を持っているようなもので、アウラの権力は近いうちに磐石になるだろうという彼は見立てる。
 シャロワ・ジルベール王国の王子・王女はイラストを見たときから金髪色白で、彼らとフレアたちのどこが違うのだろうと思っていたが、彼らは実際に北大陸にルーツがあって、そして現在の王族・貴族が移住して血統魔法維持のため、彼らの間の婚姻が多かったため、そっち系の顔立ちなのか。
 プジョル将軍が結婚することになり、その結婚式をガジー辺境伯領であげることになるがそこに善治郎が出席することになる。そしてフレア姫はその結婚式に出席するパートナーになる。結婚式のパートナー、深い仲であるという意味になることがわかってともに行きたいという。フレア姫からのまさかのプロポーズ。
 公の場とその発言したから、貿易を成立させるためにも断りづらく、さらに鉄・船の技術者派遣してくれるということもあり国益のためには成立させたほうがいい話となってしまう。まさに善治郎にとっては「なってしまう」という感じ。もちろんフレア姫的にも、故国的に木材資源が得られて超大型船建造でき、自国からカープァ王国へ直通できるようになるのもいいことだし、また彼女個人としても善治郎は結婚後も自分が男のように活動することを許容してくれるパートナーになるであろうことも非常に大きなメリットであるようだ。彼女はタイムリミットまで自由に動き、その後はおとなしく「良き妻」となるのだろうと思っていたが、結婚後も自由な行動を出来る可能性を見出して、善治郎に求婚することに。
 フレア姫と結婚する、彼女が側室に納まることなんてないだろうなと思っていたが、彼女にとってそうしたメリットがあったから、そんなことになったのか。しかしそれにしても思い切り良すぎだろとは思うけど、それほど彼女にとっては結婚後も自由に行動できるという条件のメリットは非常に大きなものなのだろう。
 そしてエピローグ、結婚式出席のため、フレア姫と善治郎はガジー辺境伯領へ出発。
 毎度の巻末短編の後宮侍女たちのパートは相変わらず面白い。今回結婚のため侍女を辞めるものたちと、新たに侍女として後宮に入ってくるものたちが書かれる。餞別として善治郎、銀とビーズを用いて偽造困難な装飾品を作り、プレゼント。それを彼女らが善治郎に「返しにくる」という名目で、なにか争いがあって不公平な扱いを受けたときに善治郎が力になる。そうした争いは貴族家、両家の力関係(どちらがより有力か)によって決まることも多いが、この装飾品を使えば一回限りだが全ての手続きをスキップして善治郎(国の中枢)に訴えを起こすことができる。もちろん善治郎・彼女らが存命のとき限定の有効期間であるが。
 若い後宮侍女にとって、後宮で働く期間はモラトリアム期間みたいなものでもあるという説明にはなるほどね。