ソードアート・オンライン オルタナティブ クローバーズ・リグレット 3

 

 

 ネタバレあり。

 今回クレーヴェル(暮居海世)が社長を務める会社の社員たちが登場。1章では風邪をひいた彼の代わりにリリカがVRオフィスの案内役として登場。そんな彼女と顔を合わせたナユタは、クレーヴェルと親しげなリリカにその正体が明らかにされるまで少しやきもきする。クレーヴェルの会社、ゲーム内の観光以外にもVRオフィスの構築を請け負ったりとか色々とやっているのね。

 2章ではクレーヴェルとナユタが順調に仲を深めている様子が書かれる。そしてクレーヴェルも友人(ナユタの兄)の死によるサバイバーズ・ギルトを抱えていて、ナユタはそれに気づいていることが書かれる。ナユタは家族の喪失による強い悲しみからコヨミやクレーヴェルのおかげで前を向けるようになったから、いまだ苦しむ彼の助けになりたいと思っているようだ。

 3章では、そして≪ガッコウ(仮)≫というクエストの関係者テストプレイに参加した時の話がかかれる。そのテストプレイの場でナユタはクレーヴェルの会社の社員である千手屋や大柿と初めて会う。ランダムに組み分けされて、ナユタは千手屋や菱川といった初対面の人たちとパーティーとなってこのテストプレイをすることになる。菱川の一つの優しい嘘の話が印象的だった。

 4章ではクレーヴェル、ナユタ、コヨミといういつものメンバーにマヒロとリリカを加えた5人で新規イベントミステリートレインの先行体験に行くことになる。その列車内でのイベントで、二人きりになったクレーヴェルとナユタ。そこでナユタは今までよりも踏み込んだ発言をして、あと半年で大学生だということを述べる。しかし、その二人の会話中にイベントの条件を達成したことによるNPCが出現していた。

 終章ではクレーヴェルの会社の天才技術者である八鳥とナユタの会話。彼はナユタに『言葉も行動も冷静なのに、目つきにだけ鬼気迫るものがあった』(P313)クレーヴェルを変えてくれたことを感謝していることを伝える。それもあってクレーヴェルの周囲の人たちもナユタに好意的だった。

 「あとがき」によると『クローバーズ・リグレットはこれにていったん幕引きとなります」(P327)とのこと。面白かったので寂しくはあるが、クレーヴェルとナユタの二人は遠くない未来に結ばれるだろうと思える終わり方だったので良かった。

恋するソマリア

 

恋するソマリア (集英社文庫)

恋するソマリア (集英社文庫)

 

 

 「謎の独立国家ソマリランド」の後の話。2012年にソマリ世界へ二度取材に行ったときのことが書かれている。

 ソマリランドの定番ジョーク。コカ・コーラ社がソマリランドでコーラの生産を始めた。『「でも、なぜかソマリランドのコーラはキャップが黄色何だよな。他の国のはみんな、赤なのにな」とワイヤッブは言うので、私が答えた。

「それはソマリランドが国際的に認められてないからだろう」

「その通りだ! ワハハハ」とワイヤッブは爆笑し、でかい手のひらで私の手をぶったたいた。

「国際的に認められてない」とはソマリランド人の決まり文句だ。大統領や政府は、野党から政治や経済のマイナス面を指摘される度に「それはわが国が国際的に認められてないから」と答える。

 政府ばかりではない。国民も毎日このセリフを繰り返すこと二十年、いまや定番のジョークに昇華した。

 「どうしてうちの店は客が入らないんだ?」「どうして今年は雨が少ないんだ?」「どうしてうちの女房は文句ばっか言うんだ?など、答えはみな「それはソマリランドが国際的に認められてないからだ」。』(P165

 ソマリの家庭料理を教えてもらったエピソードは料理も美味しそうでいいね。それに料理を覚えると同時に普通のソマリ人女性と親しく話せるよい機会にもなったようだ。そして「おわりに」で書かれている、帰国後に早大ソマリア人兄妹を家に招待し、習ったソマリ料理をふるまうと『「わあ、そまりあの味そのままだ!」と二人は目を輝かせて喜んだ。』(P314)そのように喜ばれたというエピソードもいいね。

 20122度目のソマリアへの旅で初めて首都モガディショの外に出る。政府の大部隊について氏族間の争いの停戦交渉を他の色々なメディアと一緒に取材しに行った。しかし知事は大勢のメディアを引き連れて故郷に凱旋というわけで、『彼は思ったのだろう。この愉快な凱旋ツアーを止めたくない。もっと自分の故郷の人々に融資を見せたい。テレビで全ソマリ世界にもい見せつけたい、と。(中略)もうちょっと、もうちょっと……と、マスコミ陣を騙して連れて来たというところなのだろう。』(P267)そのように彼の凱旋に付き合わされ、日帰りの予定が数日も連れ回されるマスコミ陣。

 そして装甲車に乗ってようやく帰途につく。その帰り道で襲撃された。その後、襲撃について、早大に留学にきていたソマリア人の兄妹の兄『アブディラマンから面白い意見を聞いた。アル・シャバーブの標的はまず第一に私であり、知事や議員は二の次だったにちがいないというのだ。

 「なぜなら、外国人の君は政府側の客なんだ。客を殺されるほど大きな屈辱はない。その屈辱を政府側に与えるために、彼らは君たちを襲ったんだ」(中略)「客のもてなし」はこの一年に行った二階の旅の裏テーマと呼べるほどしばしば登場した概念だった。私がなかなか家に招いてもらえなかったのも、ソマリ人が「客」に足して過剰なほどのサービスを自らに課しているからであるし、レーゴでジャーナリスト連中が知事やアミソムに大きな態度をとっていたのも「自分は客」という意識が働いていたからだ。なにより、ハムディがあれほどまでに私の面倒を見てくれたのもやはり「客」を守るというプライドゆえだった。

 アル・シャバーブの襲撃までも、「客」が動機だったとは、一般にアル・シャバーブが外国人を狙うのは、彼らが西欧の国や文化を嫌っているからだと解釈され、私もそうだと思い込んでいた。故にアル・シャバーブは常識では計り知れない危険な連中と言うイメージを抱いていた。しかし、現実にはアル・シャバーブもソマリの伝統にしたがった動きをしていたのだ。ソマリ人には常識でも、非ソマリ人には全く理解できないことが多いと前に書いたが、これもその典型だろう。』(P315-6

辺境生物探訪記 生命の本質を求めて

辺境生物探訪記?生命の本質を求めて? (光文社新書)

辺境生物探訪記?生命の本質を求めて? (光文社新書)

 kindleで読了。
 微生物(極限環境生物)を研究する生物学者の長沼毅氏と小説家でサイエンスライターの藤崎慎吾氏の対談本。連載されていた対談をまとめたもので、1幕ごとに対談している場所が変わって、その場所に関連した話題などが話される。またゲストを呼んで鼎談となっている幕もある。
 微生物には酵母やカビ、アメーバなどの小さな真核生物、細菌(バクテリア)、アーキアがある。『長沼 真核生物には微生物であるカビや酵母はもちろん、植物も動物も全部入ってくる。人間もゾウもキリンも虫けらも、全部そこに入る。酵母も人間もその縁の近さを考えたら一つのグループ、ワン・ファミリーよ。それに比べて、バクテリアとかアーキアは、もう全然違った生き物なんだ。バクテリアアーキアも1㎛(マイクロメートル。0.001mm)くらいで、見た目はまったく同じ。だけど、中身は全然違う。(中略)遺伝子もゲノムも違う。その違いから見たら、人間と酵母なんて兄弟に等しい。それくらい違う。』(N212)
 2幕では、色々な深海調査の話やそこの生物の話がなされる。『長沼 (中略)ズワイガニは海底に餌を持っていくと、どこからともなく群がってくるのね、モワモワーッと。でも、何で群がってくるのかがわからない。(中略)匂いというのは化学物質でしょ。それが水の中に出て行くんだけど、潮の流れがあるから上流とか下流がある。下流側なら匂いを感じてくるのはわかるけど、全方位からくるわけよ。となると拡散かなと……。でも、分子の拡散なんて遅いから、そんなに速く来るわけがないの。
 藤崎 数分で集まるのですか。
 長沼 うん。おかしいなということは昔から言われていて、当時、JAMSTECの橋本惇さんという研究者(現在は長崎大学水産学部教授)が、これはカニがものを食べるときの「バリバリバリ」という音で寄ってくるのではないかと考えた。』(N1235)それでカニがものを食べるときの音を録音して、それを周波数分析して合成音をつくって、その音を流してみたが、合成音にカニは集まらなかった。カニのような誰もが知っている生物にそんな謎めいたところがあるというのは面白い。
 5幕は瑞浪超深地層研究所の研究坑道での対談。
 地下微生物の世界。『長沼 地球全部の微生物が、地下生物を含めて10の30乗。そのうち今まで調べられてきた伝統的な生物圏、つまり陸上とか、海洋とか、畑の上とか、そのあたりにいるのは全部ひっくるめても10の28乗から29乗なの。つまり100分の1から10分の1なのよ。ここに微生物が100匹いたら、残りの99引きとか90匹は地下微生物ということ。
 藤崎 ものすごい勢力ですね。
 長沼 すごい数なんだけど、鈍い(笑)。鈍いから一見、何もしてないように見える。ただし長い時間を掛けてみた場合、非常に数が多いので、ゆっくりしたペースであっても、それなりの働きをしているはずだよね。で、どういう働きがあるかっていうと……何があるんだろうねぇ(笑)。
 藤崎 先生!
 長沼 実際のところ、我々は遅いバイオロジーを知らないので、良く分からない。まあ、一つには地下でメタンをつくっているだろうと。(中略)ウラン鉱山がどうしてできるのかは、ずっと長い間、地質学会で謎なんだ。ただ、われわれのここでの経験によると、どうやら微生物が一枚かんでいるらしい。
 藤崎 本当ですか。
 長沼 ウランとか、そのほかいろいろな鉱物資源が鉱床をつくる、貯まってくる、集まってくるという現象が、どうも微生物によってなされる可能性が高いんだ。(中略)もちろん、微生物がいなくてもおき得る反応なのね。微生物は奇跡をおこすわけではない。けれども微生物は、ひじょうにゆっくりした鈍いペースの化学反応を加速することができる。』(N3000)地下微生物の数の多さや、地下微生物が鉱床を作っているようだという話は面白い。

本好きの下剋上 貴族院外伝 一年生

 ネタバレあり。色々なキャラの視点で貴族院の話を見ることができていいね。それに全18編中10編が書き下ろしと書き下ろしが多いのも嬉しいところ。
 「ローデリヒ視点 貴族院のとある一日」ローデリヒはローゼマインを尊敬し慕っているが、旧ヴェローニカ派の家出身だから近づくことができない。そのようにローゼマインに信用され、近づきたいと思いつつもそれが叶わないことで抱えている思いについて書かれる。
 「ヴィルフリート視点 女のお茶会」ヴィルフリートはお茶会をローゼマインの側近に手伝ってもらうのに、配慮不足でローゼマインの側近たちに不満を持たれた。そのことは第四部3の巻末短編でも書かれていたが、そもそもヴィルフリート主従が配慮すべきことを分かっていなかったことがわかる。ヴィルフリートの側近オズヴァルトは前巻冒頭の婚約話でも差し出口をしたり、この短編もしかるべき手続きを踏まずにローゼマイン側近に手伝わせるという配慮不足なことを主ヴィルフリートに「助言」した。そのようにヴィルフリートのサポートやフォローをすべき人間がそもそも配慮不足なことを言っている。ヴィルフリートは定期的に株を下げているが、それもしっかりとした助言をしたり叱ってくれる側近がいないことに原因があるのかなと思うようになった。
 「アンゲリカ視点 神殿の護衛騎士」護衛騎士としてローゼマインの役に立てていないと思って凹むアンゲリカは、夜にこっそりとローゼマインの神殿での側仕えたちに悩みごとを相談する。そうして相談をのってもらったことで悩みは解消され、またアンゲリカが神殿に来る新しい護衛騎士でよかったといわれたことで嬉しくなる。アンゲリカとローゼマインの神殿の側仕えたちとの交流に心が和む。
 「トラウゴット視点 予想以上にひどい罰」トラウゴットはローゼマインの護衛騎士をあっさりと辞めたが、その後彼の叔父であるユストクスの厳しい対応と言葉で自分がどれほど考えが足りなかったかということに気づかされる。
 「オルトヴィーン視点 ドレヴァンヒェルの姉弟」オルトヴィーンの同母姉であるアドルフィーネの婚約。ジギスヴァルト王子とエグランティーヌが結ばれた裏で、そんなことになっていたのね。
 巻末の「ソランジュ視点 閉架書庫と古い日誌」ソランジュは政変以前の昔の司書日誌を見て、かつてのことを思い出す。政変以後の図書館の状況を思えば、ローゼマインがやってきてシュヴァルツとヴァイスを再起動させたりしたことはソランジュにとってとても大きな出来事だったのだなと思う。そしてソランジュがシュヴァルツとヴァイスが再び動き出してそばにいることを心から喜んでいることが伝わってきていいね。

戦場から生きのびて

戦場から生きのびて (河出文庫)

戦場から生きのびて (河出文庫)

 著者は西アフリカの国シエラレオネ出身の元少年兵。内戦で故郷の村が反乱軍に攻撃されて、著者はそれからしばらくの間同年代の少年達と一緒に国内を放浪していた。その後政府軍の少年兵となることを余儀なくされる。少年兵として2年ほど過ごした後、所属する部隊にユニセフの人がやってきたことで少年兵のリハビリテーション・センターに入ることになる。そこでの生活やそこを出た後の伯父との生活で日常を取り戻しつつあった。しかしクーデターの勃発でその日常も壊れ、著者は国外に脱出する。アメリカ在住。
 1993年1月、12歳の少年だった著者は、マトゥル・ジョングという町での友人たちの演芸会(タレントショー)に参加するために兄ジュニアと友人タロイとともに家を出た。そしてマトゥル・ジョルグで友人の家に泊まり、翌日友人たちが学校から帰るのを待っていると予定より早く帰ってきて、彼らから反乱軍(RUF)が故郷の町モグブウェモを襲撃したことを聞かされる。
 それを聞いて著者ら三人は一度故郷の町に戻って家族の行方を知ろうとする。しかし、そこで三人の少年は故郷の町への途上で多くの人の死体、反乱軍から逃げてきた肉親を殺された人々や重傷を負いながら逃げるために走る人々の姿を見ることになる。そんな情景を見て故郷に戻ることをあきらめ再びマトゥル・ジョングに戻った。そのマトゥル・ジョングにも反乱軍がやってきた。
 その時に一緒に逃げた六人の少年たちでまとまって過ごしていた。まとまっていることで怖がられて攻撃される危険もあったが、それでもそうしているほうがいいと考えて一緒に行動していた。内戦で人々は互いに不信感を持っていることもあって、少年たちは捕縛され詰問されたりもした。彼らはカマトー村にしばらく滞在していたが、急な反乱軍の襲撃でちりぢりに逃げたため離れ離れになった。そして一人での放浪が始まる。しばらく森で過ごしているとそこで同年代の少年たちとばったり出会う。そこで出会った少年達の中に顔見知りが三人いたこともあり、彼らと一緒に行動することになる。
 そうして暫く終わりの見えない旅を続けた後、ある大きな村で著者を知っているという女性と出会い、隣村で父母や弟を見かけたと言われる。そしてその村にはマトゥル・ジョングから来た人が大勢いて、みんなの家族が見つかるか消息がわかるかもともいわれる。
 そうして家族に会えるかもというところで、体調の悪かったサイドゥが亡くなる。この時の少年達は3つ年上のケネイを除き13歳だった。サイドゥの埋葬を終えた後、村を出て著者の父母やマトゥル・ジョングの人たちがいると聞かされた隣村に行く。しかし、その村に着く直前に村が反乱兵に襲撃されていて、家族との再会が叶わなかった。
 その後少年たちはイェレという政府軍が駐屯している村に滞在することになった。
 そうして少しの間安全な場所で落ち着いた日々を過ごしていた。政府軍が痛手を負って、周囲には反乱軍にかこまれているという状態でジャバティ中尉は志願兵を募る。『われわれは、この村の安全を保てるよう、この戦いに協力してくれる強い男と少年が必要なのだ。もし諸君が戦いも協力したくないのなら、それでも構わない。しかしそうなれば食べ物をもらえず、この村にいられなくなるだろう。出ていくのは勝手だ。料理の手伝いと、弾薬の準備と、戦うことのできる者しか、ここでは必要とされていないから。厨房をきりまわす女は足りている。反乱兵と闘うための、有能な少年と男がほしい。』(P159)反乱軍に囲まれていて逃げたら反乱軍に撃たれて死ぬ可能性が大で、事実上兵士になるしか選択肢がなくなったこともあり著者らは少年兵となる。それでこの時、30人以上の少年が少年兵として政府軍に入った。
 そして初陣から戦闘で仲間が死んだり相手を殺したりを経験する。そして色んなドラッグをやって、夜には映画を見るというような兵士の生活に慣れていく。そして『食べ物やドラッグ、弾薬、映画を観るためのガソリンが底をつくと、反乱軍のキャンプや町、村、森を襲撃した。民間人の村も攻撃して、新兵を調達したほか、なんでも目についたものを奪い取った。』(P183)こうした荒んだ生活で平常の感覚を失いながら、2年あまり兵士生活を続けていた。
 1996年1月下旬に彼らの部隊のもとにユニセフの人間がきて、15歳だった著者を含む少年兵たちが彼らに引き渡される。何が何やらわからぬままにそのままトラックに乗せられて、首都フリータウンにある少年兵たちを社会復帰させるための施設に入れられる。
 そこには色んなところから連れてこられた兵士がいるので顔合わせの段階からピリピリしている。そして政府軍の少年兵と反乱軍の少年兵を同じ学校に入れるという無茶なことをしていた。そのためそれがわかった瞬間に各々密かに持ち込んでいた武器を使って戦闘となって6人の死者が出た。施設に送られた当日にそんなような戦闘が行われた。
 ただでさえリハビリテーション・センターに送られたことを不満に思っているのに、そこでは少年兵たちが常用していたドラッグが手に入らないということもあり、少年兵たちは診療所で鎮痛剤を奪ったり、暴力的な行動を繰り返していた。著者はその施設で看護師でカウンセラーのエスターとの交流を通じて、徐々に荒んだ状態から回復していく。
 そしてフリータウンに住むトミー伯父さんと一緒に暮らすことが決まった。
 その後リハビリテーションセンターの職員レスリーから『シエラレオネの子どもたちの暮らしと、それにたいして何ができるかを語るために、子ども二人がアメリカのニューヨークの国連に派遣されることになって、その面接がある』(P283)ことを知らされ、リハビリテーションセンター所長が面接に行くことを勧めているといわれて面接に行き、国連行きが決まる。そして初海外で国連のあるニューヨークへ行き、そこで後に養母となる女性と知り合う。
 帰国後の1997年5月に政府軍と反乱軍が手を組んでクーデターを行なって政権をぶち壊し、国全体を混乱に陥れる。そして首都の街中で銃声が聞こえるのが当たり前になってしまった。それでの心痛が大きかったのか伯父さんが病気になり亡くなる。
 その後著者はこのままだと『兵士に逆戻りするか、それを拒めば元の戦友たちに殺されてしまうだろうから。』(P323)そのように感じてニューヨークで知り合った後に養母になる女性に連絡を取ってニューヨークに行けたら一緒に暮らしていいか尋ねて、それに了承の言葉を貰えたのでシエラレオネを脱出しようとする。そしてシエラレオネを脱出して隣国ギニアに着くまでの脱出行が書かれて終わる。

魔法科高校の劣等生 25

 ネタバレあり。
 前巻の最後にベゾブラゾフの襲撃を達也たちは防いだ。独立魔装大隊の上官である佐伯はその襲撃を気付いていたのに、達也に何も伝えずに観察していた。独立魔装大隊の風間が現地で密かに見ていたことも達也たちに発見される。今では縁遠くなっていたが、かつて味方だった独立魔装大隊との親密な関係の終わりを象徴するようなエピソードだ。
 倒れた水波の魔法演算領域は傷ついたままで、体調回復後もいつ倒れるかわからない。そのため普通の魔法師としては活動を続けられるかもしれないが、ガーディアンのように激しい戦闘が予想される仕事は難しい。
 そんな水波の状態に、彼女に好意を抱いている九島光宣は本人が魔法師であるのに魔法師として活躍できないことに苦しんでいたことや、水波が魔法を使わなくても調整体の血を引いていて『自分で魔法を使おうとしなくても、魔法演算領域が暴走して肉体の許容範囲を超えるという事態は十分にあり得』(P116)るということもあって、なんとしても治さなければという強く思う。
 『真夜にフリズキャルヴの端末が渡ったのは、実をいえばクラークが四葉家の情報を収集する為だった。』(P142)そのような思惑で真夜に渡ったのだが、クラークの思うようには上手くいかず達也や他の分家魔法師の能力を詳しく知ることができなかった。そのような理由があって真夜がフリズキャルヴの端末をもっていたのね。
 その頃USNAでは七賢人レイモンド・クラークは、何名ものスターズのメンバーや自らの身体をパラサイトに差し出して、達也を屈服させようとしていた。達也がレイモンドの魔法で宇宙を征服するというロマンを解さず、真正面からそれを断った。それだけでそこまでするかと呆れる。
 光宣はパラサイトとの融合で自分も彼女も治せることがわかり、まず自分自身がパラサイトと融合する。その後、水波でもパラサイトと融合することで魔法演算領域を暴走しないようにすることを提案する。水波をパラサイトと融合させる治療(?)に反対する達也と光宣は対立し、戦闘となるが決着がつかずに終わる。
 その後、九島光宣のことは十師族で会議する案件となって、光宣をどうするか話し合う。そして水波のところに来るか九島家に帰ってくるところを捕らえる方針となる。あとがきに『この『エスケープ編』でラスボスに昇格を果たした光宣』(P275)とあるので、彼がラスボスになるようだ。能力的には申し分ないけど、十師族との共同の捕り物の後に味方化するのかなと思っていたからちょっと意外。
 いっぽうUSNAでは再びスターズのメンバーがパラサイトの犠牲者になったことを発端とするスターズ内部のごたごたで総隊長リーナが襲撃され、日本への一時的逃亡を余儀なくされる。精鋭部隊にあるまじき内紛の結果、そうしたことになる。
 その後、再び達也暗殺をしかけてきたベゾブラゾフに対して、達也は今度は魔法を発生させずにベゾブラゾフ専用の貨物車両型CADを完全破壊することに成功。
 そしてラストで達也と深雪は、日本に逃れてきたリーナの口からUSNAで再びパラサイトが出現したことを聞くことになる。

アジア未知動物紀行 ベトナム・奄美・アフガニスタン

 kindleで読む。
 タイトルは未知動物だけどベトナムのフイハイ、奄美のケンモンは妖怪的な存在。
 「ベトナムの猿人「フイハイ」」
 著者は海外行きの予定が何度もつぶれて突発的にベトナム行くことを決意。そして以前から気にかかっていたフイハイを探そうとする。しかし現地についてガイドのフンさんからフイハイの話を聞くと、バナ族の人間しか見ないもので動物でなく妖怪のようなものだとわかる。そのため当初の予定である未知動物探しとは違うが、『真剣に未知動物と妖怪の境界線を探してみよう』(N250)ということになる。
 未知動物と同じスタンスで取材を行い、ガイドのフンさんの案内でフイハイをよく知っている人や実際に見た人の話を聞く。そこでフイハイの他にもボンバという似たような存在もいることがわかる。
 『フイハイ&バンボの話にはよく米軍が出てくる。(中略)そこで思うのだが、一般人にとって、「当局」(the authorities)あるいはもっと端的に「お上」というのはそれ自体がブラックボックスであり、巨大な妖怪なのではないだろうか。で、小さな妖怪が出現すると、それを巨大な妖怪が呑み込んでしまうのではないか。あるいは、小さな妖怪が話の終わりにどこかへ去らなければならないが、それは大きな妖怪の懐によって物語が収束するという構造があるのではないか。』(N479)そうした米軍と妖怪譚に親和性があるという話は面白い。
 フイハイに対する村人たちの意識。『ちゃんと実在するけど、どうでもいいもの――。/ 不思議な存在だが「意味」は別にないもの――。/ 意味があればそれはおそらく霊的なものなのだろう。だが、フイハイには意味がない。意味がないから「動物」と彼らは言うのではないか……。』(N839)
 「奄美の妖怪「ケンモン」」
 『ケンモンとは奄美にいると言われる妖怪みたいなものだ。沖縄で「キジムナー」と呼ばれるものとほぼ同じとされている。』(N1044)キジムナーは沖縄の精霊として消化されている感があるが『奄美のケンモンはいまだ全然消化されていない。見つけた人がカメラを鳥に家に帰ったり、足跡の写真を本に掲載したりしている。その散文的にして消化不良的な態度が、「ザ・辺境」なのだ。』(N1495)
 恵原氏の著書「奄美のケンモン」の中のエピソードで米軍占領下の時代、米軍政府からの命令で刑務所でケンモンが住むとされている場所(ケンモンハラ)のガジュマルを斬らねばならなかった。その時尻ごみする受刑者に、刑務官だった恵原氏は『ガジュマルを切る時、マッカーサーの命令、軍政官の命令だぞと唱えればいい、斬る人には祟りはない、祟りは命令者に来る。』(N1293)といって説得して木を切らせた。『このような調子で、「マッカーサーの命令」という合い言葉のもと、奄美の主要なケンモンハラのガジュマルは殆ど切りつくされ、以降、ケンモンが現れたという話も聞かなくなった。(中略)一九六四年、アメリカでマッカーサーが死亡したというニュースが伝わると、村人や刑務所職員の間では「近頃でなくなったケンモンはアメリカに行ってたのかもよ。マッカーサーはケンモンの祟りで死んじゃったんじゃないかなー」と笑いあったという。そしてその後、ポツポツとケンモンの話を聞くようになり、「マッカーサーが死んだのでアメリカから帰ってきたようだ」と話すのだった……。
 著者は言う。『もちろん冗談半分にではあるが意識の隅っこにはその思いがあるのです』と。』(N1304)このエピソードも興味深い。
 「アフガニスタンの凶獣「ペシャクパラング」」
 ペシャクパラングはアフガニスタンで人を襲っていた謎の動物。ペシャクパラングには死体を食べて凶暴化した動物説、米軍が放した動物説などがある。取材に同行した通訳兼ガイドの純朴なヘワッド青年のエピソードは和んでいいね。