恋するソマリア

 

恋するソマリア (集英社文庫)

恋するソマリア (集英社文庫)

 

 

 「謎の独立国家ソマリランド」の後の話。2012年にソマリ世界へ二度取材に行ったときのことが書かれている。

 ソマリランドの定番ジョーク。コカ・コーラ社がソマリランドでコーラの生産を始めた。『「でも、なぜかソマリランドのコーラはキャップが黄色何だよな。他の国のはみんな、赤なのにな」とワイヤッブは言うので、私が答えた。

「それはソマリランドが国際的に認められてないからだろう」

「その通りだ! ワハハハ」とワイヤッブは爆笑し、でかい手のひらで私の手をぶったたいた。

「国際的に認められてない」とはソマリランド人の決まり文句だ。大統領や政府は、野党から政治や経済のマイナス面を指摘される度に「それはわが国が国際的に認められてないから」と答える。

 政府ばかりではない。国民も毎日このセリフを繰り返すこと二十年、いまや定番のジョークに昇華した。

 「どうしてうちの店は客が入らないんだ?」「どうして今年は雨が少ないんだ?」「どうしてうちの女房は文句ばっか言うんだ?など、答えはみな「それはソマリランドが国際的に認められてないからだ」。』(P165

 ソマリの家庭料理を教えてもらったエピソードは料理も美味しそうでいいね。それに料理を覚えると同時に普通のソマリ人女性と親しく話せるよい機会にもなったようだ。そして「おわりに」で書かれている、帰国後に早大ソマリア人兄妹を家に招待し、習ったソマリ料理をふるまうと『「わあ、そまりあの味そのままだ!」と二人は目を輝かせて喜んだ。』(P314)そのように喜ばれたというエピソードもいいね。

 20122度目のソマリアへの旅で初めて首都モガディショの外に出る。政府の大部隊について氏族間の争いの停戦交渉を他の色々なメディアと一緒に取材しに行った。しかし知事は大勢のメディアを引き連れて故郷に凱旋というわけで、『彼は思ったのだろう。この愉快な凱旋ツアーを止めたくない。もっと自分の故郷の人々に融資を見せたい。テレビで全ソマリ世界にもい見せつけたい、と。(中略)もうちょっと、もうちょっと……と、マスコミ陣を騙して連れて来たというところなのだろう。』(P267)そのように彼の凱旋に付き合わされ、日帰りの予定が数日も連れ回されるマスコミ陣。

 そして装甲車に乗ってようやく帰途につく。その帰り道で襲撃された。その後、襲撃について、早大に留学にきていたソマリア人の兄妹の兄『アブディラマンから面白い意見を聞いた。アル・シャバーブの標的はまず第一に私であり、知事や議員は二の次だったにちがいないというのだ。

 「なぜなら、外国人の君は政府側の客なんだ。客を殺されるほど大きな屈辱はない。その屈辱を政府側に与えるために、彼らは君たちを襲ったんだ」(中略)「客のもてなし」はこの一年に行った二階の旅の裏テーマと呼べるほどしばしば登場した概念だった。私がなかなか家に招いてもらえなかったのも、ソマリ人が「客」に足して過剰なほどのサービスを自らに課しているからであるし、レーゴでジャーナリスト連中が知事やアミソムに大きな態度をとっていたのも「自分は客」という意識が働いていたからだ。なにより、ハムディがあれほどまでに私の面倒を見てくれたのもやはり「客」を守るというプライドゆえだった。

 アル・シャバーブの襲撃までも、「客」が動機だったとは、一般にアル・シャバーブが外国人を狙うのは、彼らが西欧の国や文化を嫌っているからだと解釈され、私もそうだと思い込んでいた。故にアル・シャバーブは常識では計り知れない危険な連中と言うイメージを抱いていた。しかし、現実にはアル・シャバーブもソマリの伝統にしたがった動きをしていたのだ。ソマリ人には常識でも、非ソマリ人には全く理解できないことが多いと前に書いたが、これもその典型だろう。』(P315-6