あいにくの雨で
- 作者: 麻耶雄嵩
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/06/25
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
町に初雪が降った日、廃墟の塔で男が殺害された。雪の上に残された足跡は、塔に向かう一筋だけ。殺されたのは、発見者の高校生・祐今の父親だった。8年前に同じ塔で、離婚した妻を殺した疑いを持たれ、失踪していた。母も父も失った祐今を案じ、親友の烏兎と獅子丸は犯人を探し始める。そんな彼らをあざ笑うように、町では次の悲劇が起こり―。衝撃の真相が待ち受ける、青春本格ミステリ。
最近なぜかミステリー小説を読めていなかったので、久しぶりのミステリー小説。
冒頭部、どうやら探偵役らしい獅子丸にトリックが分かり、解決の筋道が見えたが、彼にとってその犯人を告発すべきか悩むような間柄の人間のようだというところで物語が始まる。
主要キャラの高校生三人組のうちの一人である、祐今の稚気にあふれ、好奇心が強いけどビビリというキャラはいいな。と思ったので、物語が進むにつれて災難が降りかかってきて憔悴していてかわいそう。
「塔」で起きた殺人事件、かつて祐今の母が殺された場所で、当時容疑者だった祐今の父が今度殺された。それを知って彼の父の冤罪を証明し、両親を殺した真犯人を探すべく、高校生三人組はその事件を探る。
しかし一番可愛がってくれ、育ててくれた祖父もその犯人に殺されてしまって。祐今は精神的にボロボロになる。
彼らが通う高校の生徒会周り、なんかやけに黒い謀略めいたことや、政争をするというちょっと大仰なもので、さまざまな情報を収集したり分析する生徒会私設の秘密情報部みたいなものもあって、それらの持っている権限的には高校スケールの話なのに、そういった政争の質だけは実際の政治レベルというギャップが面白いな。そして、そんなことをしているのは一般の生徒には知られていないということもまた面白い。
その生徒会にもぐりこんだスパイを調べる。元生徒会の情報部みたいなものの獅子丸、烏兎。そうしてスパイを調べるパートで、そして物語が進むにつれて、探偵役っぽい獅子丸の冷たさ、冷淡さ、そしてちょっと危うい感じが出てくる。
だから後半になって、彼の従兄で彼が唯一といっていいほど強い親愛の情を持っている矢的に疑いが強まったときに、自らの推理で知りたくなかった真相を知り、名探偵としての役割を果たすことと私的な感情の板ばさみが起きて苦しみ、その役割に葛藤・絶望する探偵獅子丸という話になるのかと思った。
しかし流石麻耶さん、そう予想通りにはいかない。自らの推理で我が身を苦しめる探偵という構図は予想していたものと一緒だが、最後に明かされるまで予想していた犯人・探偵役が異なるというまさかの展開だ。
久しぶりにミステリーを読んだということもあってか、変に勘ぐらず素直に読んでいたのでこのどんでん返しには素直に驚けた。
露骨に一人怪しい人がいたので、いつもなら、れじゃあそいつでないだろうということは思っていただろうが、久々に読んだということでぼけていたのか、真相が明かされる前の仮の落着の時点で、それで終わると鬱屈したものを抱える高校生たちが事件に遭遇して傷つき失い大人になるというミステリー風の青春小説っぽい話になるけど、そうした名探偵の苦しみ、喪失を描く話だったのかと思ってそれなりに納得してしまっていたわ。著者を考えれば本格推理小説の人なので、そんな単純なオチにしないとわかっていいはずなのに(苦笑)。
(以下ネタバレ)
しかし感想を書いていて気づいたけど、最後には探偵役っぽかった獅子丸が真犯人で、ワトスン役っぽかった語り手の烏兎が探偵役となるというのは、助手役による名探偵への告発という構図でもあるのか。