エンジェルフライト

内容紹介

国境を越えて遺体や遺骨を故国へ送り届ける「国際霊柩送還」という仕事に迫り、死とは何か、愛する人を亡くすとはどういうことかを描く。第10回開高健ノンフィクション賞受賞作。(解説/石井光太)


 海外からやってくる、あるいは海外へと運ぶご遺体にエンバーミング(防腐処理)などをして腐るのを防止して、事故などの不慮の事態で亡くなった方を生前の姿に整える仕事をしている国際霊柩送還士の仕事を描いたノンフィクション。
 国際霊柩送還士という言葉は、日本最初でそうした仕事を専門にしているエアハース・インターナショナルという会社が用いている語である。そして著者はそのエアハース・インターナショナル社に取材して、この死にまつわる仕事ゆえ知られていないが、その会社の人々の真摯な仕事ぶりと遺族・ご遺体への心遣いについてを書いている。そしてエアハースの国際霊柩送還士の何人かにスポットを当てて、彼らがどういう人かについても書いている。
 海外から搬送される遺体、90%以上体液漏れ起こす。亡くなった人の尊厳を踏みにじるような雑な処置や搬送を行う業者は、海外にも日本にもそれなりにいる。それも単に技術が拙いというだけでなく、遺体ブローカーとして高額の遺体保管料を要求する業者もこれまた海外だけでなく日本にもいる。それに必要のない処置をしないかと持ちかけてくる業者も存在する。
 日本では死にまつわることに関心を払わないので、歪みが生じ、悪質な業者の存在を許している。
 そんな中でエアハースは良くも悪くも昔気質というか、人情家な社風の会社で、常に遺族・死んだ人のことを思って処置、対応している。しかしその分だけ求められることが多いので社員にとっては相当にハードワークになっているみたい。
 そうした会社の気風は、髪を赤く染めて派手なブラウスに会社のベンチコートを羽織るっている姿をしているという個性的な社長の木村利恵のキャラクターが非常に大きい。
 社長「個人や遺族の気持ちは、誰にも分からないんだよ」と常日頃著者に言う。それは著者のみに向けていった言葉でなく、死に携わる彼ら、彼女らは個人や遺族のために、感情的にならない冷静さが必要されるため、その言葉は自分たちのスタンスを言い表すものでもあるみたいだ。感情的になることを自分に許さず、冷静にショックを受けた遺族を支えるのが自分のやれることと思っているのだろう。
 実際に家族を亡くした方から見た国際霊柩送還士(エアハース)の仕事について、エアハースの仕事ぶり・利恵さんの心遣い(押し付けがましくないさりげない優しさ)と家族を亡くした時の体験についてを何名かの方にインタビューをされれていて、そうした家族を亡くしたときのエピソードには思わずうるうるきてしまう。そしてエアハースの素晴らしい仕事ぶり・心配りには安心できる。
 エアハース、生きているようなエンバーミングを施す。
 遺族は遺体と向き合い弔うことで、その死と向き合うことが出来る。娘が海外で死に遺骨で帰ってきた母親は、20年以上前であるが彼女にとって娘はいまだ死者にならず、士別の悲しみが癒されないという例がある。そのため、たとえ死んだ親族の遺体と向き合うことが苦痛でもそうしたお別れが出来ることで、一つの決着がつけられることも多い。
 つまり国際霊柩送還士の仕事とは『最後にたった一度の「さよなら」をいうための機会を用意することなのだ。』(P263)