ドン・キホーテ 前篇 二

ドン・キホーテ〈前篇2〉 (岩波文庫)

ドン・キホーテ〈前篇2〉 (岩波文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

その名も高きドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャとその従士サンチョ・パンサ、例によって思い込みで漕刑囚たちを救ったあげく、逆に彼らに袋だたきにされ、身ぐるみはがれる散々な目に。主従はお上の手の者の目を逃れ、シエラ・モレーナの山中に。


 文学の古典なのに、相変わらずさくさく読める。
 今回の最初(22章)で、ドン・キホーテガレー船に送られる徒刑囚を見て、彼らが何故ガレー船に送られることになったのかと言う理由を聞くが、そのうちの一人に下着ドロがいて笑った。こんな時代にすでにそうした人がいたということにはなんか変な感心をしてしまった。しかしガレー船徒刑囚解放は、今までもさんざ犯罪を犯しているけど、今回は国家に対する挑戦とも捉えられかねないものだから、少し心配になる。まあ、本文中でも散々触れられているけど狂人は無罪になるようだから、そんな心配するようなことではないかもしれないけど。
 サンチョ・パンサの忠言は結構まともだし、案外彼はキチンとした従士をやっているねえ。それに主人の狂気は気づいていたようだし。ただ、彼が語る冒険の末にある報償(サンチョに領地を与えるという言葉)は疑いを抱いていなかったようなので、その点ではやっぱり鈍いのか。
 幼馴染で将来を約束していた女性が、大貴族の息子に奪われたと思って世を捨て、山へ入ったカルデニオに会う。彼はあまりの打撃ゆえに、狂気の発作にとらわれることもしばしば。
 彼の身の上話を聞かせているとき、途中で茶々入れないでといわれていたのに、ドン・キホーテが騎士物語に言及した彼の比喩をつっこんだ結果、話中に再び狂気に囚われ始めていた彼は腹に据えかねて、愁い顔の騎士ドン・キホーテ痛い目に遭う。1巻の感想で、基本的にドン・キホーテが痛い目に遭うのは自分が原因と書いたが、これもそうだけど、ちょっと流石に自業自得とまではいえない些細な過失だから、サンチョについてといい1巻の感想で書いたのとちょっと早速違い始めたので、思わずちょっと苦笑い。
 ドンキホーテオデュッセウスアエネアス『後の世の人びとが美徳の亀鑑として仰ぐことができるように、かくあれかしと理想化している』(P96-7)、それと同じようなことがアマディスに言えるという具合に作り物であることを承知しているかのような発言も見られるし、また思い姫について農家の娘のことだったのかとサンチョに言われても、家筋のことは関係ないと高貴な家柄でないことは認めている(そこまでは騎士物語的な虚構で塗り固めていなかったり)ことを見ると、果たして彼がどの程度正気を失っているのか、怪しんでしまう。前者は基本的なことは事実だと思っているということで、そういう意味ではそこは疑っていないということなのだろうけど。それでも、司祭がいっているようにドン・キホーテは騎士物語に関わりのあるようなこと以外は正常な判断をしているから、なおさら一体どこまで本気で狂っているのか、どこまで正気かがわからなくなってしまうことがあるな。
 カルデニオの姿を見て着想を得たのか、アマディスのように恋の絶望のために狂乱しなくちゃと思って、すでに狂人なのに狂する振りをするというのには思わず笑いがこぼれる。そして恋のためにいかに私(ドン・キホーテ)が狂ってしまったのかを思い姫に伝えるため、それを伝えに行くサンチョに自分がこれから狂った振る舞いをするから、それを見ていけと熱心にすすめる。サンチョは口でどうとでも言うからと見たくなさそうにしているが、その熱心さに押されて結局少しだけ見ることになり、やっぱり主人は狂っているという各章を改めて得ながら、思い姫(ドン・キホーテが住んでいる村の近村の農家の娘)にその様子とドン・キホーテの恋文(文章自体は忘れたが)を伝えるため、山から下りてこれまで移動してきた道を戻っていく。
 その途中でドン・キホーテを探しにきた、彼の友人である司祭と床屋に会う。そこで司祭たちはドン・キホーテを家に何とか連れ戻そうとして、変装をして騎士物語のようなシチュエーションを作って、上手いこといって連れ戻す作戦を立て、3人でドン・キホーテが籠もっている山の中へと進む。
 そこでカルデニオと邂逅し、また一人の男装をしている娘と出会う。その娘は、カルデニオが将来を誓った女性を、奪い取った男と契りを結んだがそれを破られた人。そのきっかけがそのカルデニオの婚約者だった女性だった。ここでカルデニオは結婚式の際に途中で体積したが、実はその後大貴族の息子とは結婚しない、自分はカルデニオの妻だとする手紙と、自害するための剣を携えていたことを知り、その結婚ご破算になっていたことを知る。それを知り、彼は一気に希望を取り戻す。そして男装をしていた娘ドロテーアと結婚を誓った公爵家の息子を、ドロテーアのもとにやるように協力しようと申し出て、二人は協力することになる。この邂逅で絶望に浸っていた二人の鬱々とした気分もすっかり晴れたようで、司祭たちがやろうとしていたドン・キホーテを家に連れ戻すための小芝居に協力することさえする。
 今回はその二人の恋の物語、身の上話が主に展開されるので、いまいちドン・キホーテの影が薄め。
 しかしドロテーアのおかげで(彼女はブルジョワ生まれで、その美貌の噂を聞いた公爵の放蕩息子が求愛にくるほどの養子だから)、当初は床屋がドン・キホーテに助けを求める姫君役をやるはずだったのに、一気にまともに。しかしこのまま帰れば、結局サンチョ・パンサを伴っての旅は、さんざん怪我しまくったり、色々濃い旅だったけど10日程度で帰りつくことになりそうだ。
 しかしその芝居をサンチョ・パンサまで信じ込んでいるのは、鈍いというより、利益・都合の良いことに目がくらんでしまうというタイプなのかなあ。
 宿屋の親父や女中とかも騎士物語を聞くのが好きだと言っているのを見ると、かなり社会の広範囲の層で好まれていたのだな。
 宿屋にあった、ある物語を司祭が皆に読み聞かせる。その物語が続いていく中で、今回は終わり。今回、例の二人の恋の身の上話とこの物語という、挿話(短い物語)が続き、ドン・キホーテの出番少ないね。