キヨミズ准教授の法学入門

キヨミズ准教授の法学入門 (星海社新書)

キヨミズ准教授の法学入門 (星海社新書)

内容(「BOOK」データベースより)

山の上の高校に通う2年生の僕は、放課後に寄り道した喫茶店「赤ひげ小人」で、近所にある港湾大学のキヨミズ准教授と出会う。大学で「受講生0人の法学入門」を受け持つ少しヘンなその先生は、お願いもしてないのに、法的思考のすばらしさを高校生相手に嬉々として語り出して―。「高度な内容を分かりやすく」を信条に首都大学東京で教鞭をとる若手憲法学者が、進路に迷う高校生や法学に拒絶反応を示す文学部生にも分かるように、物語の手法を用いて生き生きと、そして最高に面白く語る「日本一敷居の低い法学入門」。

 全編物語形式で法学(個別具体的な法律の条文とかではなく)について説明していて、学習漫画とか漫画でわかる○○の小説版という印象を受ける。
 実際の日本の法律についてあれこれと語るというのではなくて、法の基礎的知識、法とはそもそもどういったものなのかみたいなことを解説している。例えば法的思考や法の分類分け、法の解釈、あるいは法の歴史などを説明している。
 法的三段論法は、法律などの一般的・抽象的な(誰にでも当てはめられる)規範に事実を当てはめて、それに該当するから罪となる、ならないと判断すること。裸の価値判断とは、ある犯罪の報道を見たときにこれは死刑、有罪、無罪と直感的に思ってしまうことをいう。
 キヨミズ先生が教師役、ワタベ先生と高校生のキタムラが彼の話を聞いて話が進んでいく。こうした話は少しわかっている生徒役とまったくわかっていない生徒役がいるのはひとつのパターンだけど、ワタベ先生も法律の専門家なのに基本的なところまで疑問を述べているのはちょっと首を傾げたくなる。しかし読み進めていくと結構ワタベ先生は気遣いの人だと感じるから、ぜんぜん法学のことがわからないキタムラのために基本的な質問を代わりに投げかけてくれているという解釈でいいのかな。
 「chapter2」で法学も含めて、社会科学の学問ごとの学者たちの性格の傾向を戯画化しているのはちょっと面白い。
 日本法では原則としてあらゆる契約が約束(口約束)で成立することになっている。しかし『裁判所が、書面もないのに契約があったと認定するのは稀』(P101)。
 『公権力というのは、相手が嫌だと言っても強制的に従わせる力、つまり暴力によって担保された権力のことです。公権力は、国家だけに帰属する、というのが近代法の基本原則』(P111)。中世などでは領主や教会・寺院が権力・暴力(武力)をもっていたので、国家「だけ」というのが近代法のポイント。現代にも暴力団やマフィアもいるが、規範的にあってはならない存在だとされているが、中世などでは国家の他に教会・領主といった武力を保持する存在が当然のものと許容されていた。それが両者の違い。そういうのもあってか、個人的にはどうも中世の武士・騎士を現代社会の暴力団・マフィアと同列視するような書き方をしたような本ってちょっと違和感を感じるんだよなあ。もちろん興味をひきつける効果やあかりやすさがあるから色々な人がそうした言い方を使っているのだろうけど、そうした言葉で表現することで歪んでしまうものがあるように思う。
 結局「chapter 4」でワタベ先生が高校の文化祭に来ていた理由ってなんだったんだろ。
 『「それで、今、この本読みながら予習してるの」/ そう言うと村山さんは、原田実『オカルト「超」入門』(星海社新書)を取り出した。その本なら僕も読んだ。恰好の入門書だ。』(P180)と露骨に同じレーベルの書籍を宣伝を挟み込んできたのには思わず吹いた。
 中世、欧州各地域に固有法があったが、『ローマ法はJus Commue'『普通法』と呼ばれていて、ヨーロッパのどこにでも適用されるほうだと観念されたんですね。ですから、固有法の内容がはっきりしない問題や、たくさんの地域にまたがる問題が生じたときには、ローマ法が参照された』(P238)。
 『さまざまな側面で変化が激しい近代社会では、迅速・大量・効率的に法が生産される必要がありますね。そこで、近代社会は、立法権という概念を生み出しますね。これは、ローマに由来する成文法の思想を極限まで推し進めた特殊な概念ですね』(P258)。立法権は当然に昔からあるというものではなく『例えば、中世社会では、法は、特定の人が権限を行使して作るものではなく、慣習の積み重ねにより自然に出来るものだという考えも根強かったんですね。/ 近代社会になってようやく、法は立法権者が意思によって作るものとされますね。近代初期のうちは、君主と議会が立法権の取り合いをしまして、この事項は君主、この事項は議会、といった感じで事項ごとに分担していたんですが、現代では、議会があらゆる事項の立法権を独占します。近代議会は、非常に優秀な法工場なんですね』(P259)。
 「Epilogue」では、手紙という形で法についての入門的な本などがその本についての簡単な説明とともに紹介されている。