人類は衰退しました 未確認生物スペシャル

内容(「BOOK」データベースより)

わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は“妖精さん”のものだったりします。そんな妖精さんと人間との間を取り持つのが、国際公務員の“調停官”であるわたしのお仕事。そう、妖精さんは実在もするし確認されている生き物。では、未確認生物とはいったい…?トロール、未来人、ゾンビ、マンドラゴラ…飽くなき探究心こそ、人類の進化のエネルギー。目撃者、わたしが見たその正体とは!ちょっと怖くて、ちょっと世知辛い!?すべて書き下ろし、珠玉の“スペシャル”な短編集。


 本編完結後のことなどが書かれた短編集。久しぶりのシリーズ新刊で嬉しい。
 ネタバレあり。

 「ひみつのおちゃかいのそのご」<わたし>が学生時代に書いた童話はいい感じのひどさで好き。童話をリアルに解釈したもののようだけど、変なバッドエンドとかにしていないのがいいね。仲間内で作った文集の中にその童話を収録した。その文集を『あちこちに隠して、自然に発見されるのを待つのがならわし』(P30)というが、その秘かに隠しておき、発見されて読まれるのを待つというレトロな感じや秘密感がある楽しみ方はいいね。
 当時彼女が書いたそうした世知辛い解釈をした童話が妖精さんたちの間で『ごっこ遊びのネタとして定番化している』(P38)。この短編集には、そうした童話でごっこ遊びしている妖精さんの姿を描いた掌編がいくつか収録されている。
 「じしょう未来人さんについてのおぼえがき」里に予言ブームが起こり、<わたし>は妖精さん関連ではないかと調査に乗り出した。
 未来人を名乗る女の子ミシェールがその予言をしていた。その予言は的中するものではなかったが、単なる虚言癖ではなく、彼女は確かに未来から来ているという感覚をもっているようだ。後に<わたし>は、彼女のその感覚はなぜ来るのかの仮説を立てる。彼女の主観では、普通とは逆に未来から過去へと進んで行くような感覚があり、その感覚からくる不安からかつて予言者を名乗っていたのではないかと<わたし>はミシェールに話した。ラストで<わたし>が年老いて亡くなる前のミシェールにいった『はじめましてミシェール。これから何十年か、よろしくお願いしますね』(P81)というセリフがいいね。この短編はオリヴァー・サックスの本にあってもおかしくないような話だ。しかしラストの一瞬とはいえ、数十年後を描くとは思わなかったのでちょっとびっくり。
 「トロールハンターさんの、ゆかいなしゅりょうせいかつ」読者である私もそうだったが、Yも『トロールって何?』(P110)と言って本当に存在するものか怪む。しかし、わたしや<巻き毛>がさも当然のように語り、プチモ二がその説明をすることで、トロール妖精さんのような感じで実際にいる存在だということが書かれる。わりと力技でそういう存在はこの世界では当たり前にいることにされているのがちょっと笑える。
 トロール妖精さんが変異した姿ではない。そしてトロールは災害のような存在で人里でいろんなものを壊す。
 そのトロール被害が報告されているヤナギ谷という場所に赴く<わたし>。しかし彼女がこの村にやって来た時すでに被害が大きすぎてボニーさんしか残った人はいなかった。
 トロール退治に行くわたしに助手さんと妖精さんが用意してきたゲームめいた装備。その装備で次々とトロールモンスターハンターのような感じで倒していき、妖精さん製の武器の効果かトロールを倒すと素材が出て、武器を強化できる。
 当初の目的を超えて狩りゲー、その作業を楽しむ二人。いくら倒しても減らないトロール、その根本にあったのは妖精体質。ボニーさんは童話を強く卒業し、妖精さんの増殖は抑制されているがその妖精体質はそのままだからトロール大量発生ということになったようだ。その後妖精さんを見れるようになった彼女を第二の助手となる。それからしばらく経った後、人が消えたヤナギ谷はモンスターハンターならぬトロールハンターたちが集う場所になっていた。ハンター協会や闘技場まで出来てにぎわっているようだが、現実で狩りゲーができる場があるなんて面白そうだし、にぎわうのも無理はないな。
 「よるのぼくじょうものがたり」ホラー的な体質、というかホラーの世界の種族たちが里の近くに引っ越してきた話。
 ホラーな噂が急に出てきた場所にある幽霊屋敷に調査に入ろうとした<わたし>と<巻き毛>。<わたし>は<巻き毛>が怯えているのを見て、彼女の上着のポケットに妖精さんをひとり渡した。彼女と妖精さんとの『相性があまり良くないのか、妖精さんはおどおどしていました。/ ……すぐ消えちゃいそうだけど、ちょっとでもお守りになればいいか。』(P174)と、消耗品扱いしていることに笑った。
 あとがきによると、来年の二月に新作のジュブナイルSFがでるようなのでそれも楽しみ。