ノラ猫マリィ

ノラ猫マリィ

ノラ猫マリィ

内容(「BOOK」データベースより)

外縁都市グラムENDの掃き溜め“猥路”。世界と隔絶された超最低なこの場所から、空に焦がれて一匹の溝鼠が外に出た。名はマリア・ローズ。何も持たないマリアは、外の世界で言葉を、友を、仲間を手にしていく―「僕が連れていく。きみたちを、外へ。死んじゃだめだ。生きよう」マリアは大切な人たちを守るため、人を喰らい街を破壊する“化物”に立ち向かう…!!美しく誇り高いマリアと仲間たちの最高な物語、新たなる幕開け。


 ネタバレあり。
 表紙絵の「薔薇のマリア」の主人公マリアローズ似のキャラクターと、帯の『「薔薇のマリア」完結から2年。ファン待望の新章開幕!』という文言に惹かれて読んだ。
 直接の続編だったり、本編で語られなかったことが語られるとかではなくて、「薔薇のマリア」とは別の世界でスターシステム的に「薔薇のマリア」で登場したキャラクターが名前を変えたりして登場するという感じ。例えばマリアのほかにも森チエリはあだ名でそのままモリーと呼ばれているし、カタリを想起させる卍・クルチバ。クヮグンタ家のローチ坊ちゃんとその右腕ルカ・ルッチは、チーロ・パンカロとカルロ・ボッシなど。
 猥路という下水道のような場所で暮らす人々。その場所で運良くあるいは運悪く育ったのが本作の主人公。主人公はそこで群れずに一人で暮らしていた。そこの住民が外に出ると『外の連中に駆られてしまう』(P9)から、衛生的にも酷い場所でもそこに留まっているものも多い。主人公は決心して外に出たが、早速襲われて死にかける。そんなところを森チエリ(モリー)に助けられる。
 モリーに拾われて、彼女の下で常識を学び、人の温もりを知る。そして主人公はマリア・ローズという名前を得る。マリアは野性児のように常識を知らないが、しかし野性児のように自由さや自然の恵みの中に育ったのではなく、汚水の中で育ったというよりハードな出自。
 モリーとの生活で、徐々に普通の生活を学ぶ。そうして色々なこと、掃除をすることや調理、文字などを知っていく様子が書かれるのが面白い。そして私たちが知っている薔薇マリのマリアのような性格や口調になる。
 モリーは人の怪我を癒す特別な能力を持っている。その能力を使って人々を助けている。しかし明らかに無理をしているようで、しばしば反応が少しの間急になくなるようなことがある。そのことでマリアは心配している。危うい兆候を見せてはいるモリーとそれを気遣うマリアの会話の清澄で儚い感じがいいね。
 しかし疲労でそうして急に意識がなくなり眠るのではなく、原因不明でそうなる。モリーが焦っているというか仕事を詰めているのは、そういうことが増えてきたからこそというのもあるのかな。
 人が暮らす都市は外縁都市13、衛星都市7、枢軸都市1で全部。マリアやモリーが暮らすのが外縁都市グラムEND。都市間をつなぐ配管。グラムENDに流れてくる塵で廃棄区となった場所があり、その下に猥路がある。
 モリーの願いもあって、マリア・ローズは酷い場所に暮らす猥路の住民を助けて、外で生活させるために、再び猥路に足を踏み入れる。そうして幾人かの人間を外に連れ出すことに成功して、彼ら彼女らがモリーを中心とする家の一員、仲間となる。猥路出身の人々には忌み者の証明(ローザイン)またはシルシと呼ばれる、肉体の部位が黒く泡立つようになっているという変化があるという。しかしマリアには何故かない、そしてマリアの性別が「薔薇のマリア」の通り。そうしたマリアの特別さはどんな意味を持つのかな。
 そしてマリアが肉体的な強さではなく、技巧的なものだが、他の猥路から出てきた人間たちよりも強いというのは、ちょっと意外。まあ、その理由は周囲の状況をみる上手さであって、強みという部分では「薔薇のマリア」の主人公と変わってはいないのだけれど。
 街で起こっている不自然な猫や人の失踪。その異変と関係あると思しき謎の化け物がグラムENDを自由気ままに破壊していく。
  グラムENDのような場所でも外の街に比べれば生きやすい。そして外の世界は資源が少ないし、ここから集団で逃げると都市の中では大規模なグループでなくとも、外では大きなグループとなるからその集団が入られた領地では領主が雇っている戦士達に排除される。そんなわけで外に逃げるのも得策ではないというのもあって、化け物と対峙する。
 クヮグンタ家とマリアらは協力して、隠し持っていた魔法石を武器に化け物退治をする。多くの人間が戦略をたてて、強大な化け物をなんとか罠にはめて街から消すという展開はいいね。
 マリアは化け物退治の前面に立って囮としても活躍。しかし大怪我を負い、それをモリーが治したが、その後彼女は長い眠りにつく。起きている時よりも寝ている時の方がずっと長い状態になった。そのためマリアはモリーの治し方を探すために一人で他の都市へと旅に出ることにするといったところで今巻は終わり。たぶん続編あるよね。