予想通りに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

 

 

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 『本書(やその類書)の実験結果が示すように、わたしたちがくだす決断は、従来の経済理論が仮定するほど合理的ではないどころか、はるかに不合理だ。といっても、わたしたちの不合理な行動はでたらめでも無分別でもない。規則性があって予想することができる。脳の基本的な仕組みのせいで、だれもが同じような失敗を何度も繰り返してしまう。』(N5781

 『たとえ不合理があたりまえのことであっても、だからどうしようもないというわけではない、ということだ。いつどこでまちがった決断をする恐れがあるかを理解しておけば、もっと慎重になって、決断を見なおすように努力することもできるし、科学技術を使って生まれながらの弱点を克服することもできる。』(N5861)人間の判断は従来の経済理論の仮定より不合理だが、その不合理な行動にも規則性があるので、どこで不合理になりやすいかがわかれば見直すこともできる。

 「3章 ゼロコストのコスト」無料の魅力。アマゾンの一定額以上の注文で配送料が無料となるサービスをはじめて売り上げが劇的に伸びた。フランスでは一定額以上の注文で1フラン(20円ほど)にしたので売り上げが伸びなかったが、1フランを無料に変えると他の国と同様に売り上げが劇的に伸びた。そのように01が生み出す差は非常に大きい。

 『あなたは二〇円の手数料のままで(フランスのアマゾンの配送料のように)現状を維持することもできるし、何かを無料!で提供して人々の殺到を起こすこともできる。なんと強力な概念だろう。値段ゼロは単なる値引きではない。ゼロは全く別の価格だ。二セントと一セントのちがいは小さいが、一セントとゼロの違いは莫大だ。

 もしあなたが商売をしていて、この点を理解しているなら、たいしたことができる。お客をおおぜい集めたい? 何かを無料!にしよう。商品をもっと売りたい? 買い物の一部を無料にしよう。

 同じように、無料!を利用して社会政策を推進することもできる。人々に電気手数料を運転させたい? 登録や車検の手数料を安くするのではなく、手数料をなくしてしまって、無料!をつくりだそう。あるいは、公衆衛生に関心があるなら、重い病気への進行を防ぐ方法として早期発見に重点をおこうことだ。人々に適正な行動――定期的な結腸鏡検査や、マンモグラフィーコレステロールのチェック、糖尿病のチェックなど――をさせたい? 自己負担金をさげて検査費用を安くするのではなく、重要な検査は無料!にしよう。

 思うに、ほとんどの政策参謀は、無料!が手持ちのエースだということに気づいていない。まして、その切り札をどう使うかなど考えてもいない。予算削減が叫ばれる昨今、何かを無料!にするのはたしかに直観に反している。しかし、ちょっと立ち止まって考えると、無料は絶大な力を持ちうるし、それを利用するのは大いに理にかなっている。』(N1467

 「4章 社会規範のコスト」社会規範と市場規範という2つの規範。

 コンピューターの画面の左に出る円を右に出る四角までドラッグするという短く簡単な作業をしてもらう実験。その実験協力者に5ドル払う場合と50セント払う場合、社会的頼み事として協力してもらう場合の違い。5ドルの場合は平均159個ドラッグし、50セントの場合は平均101個、頼みごととして実験に協力した(社会規範を適用させた)人は平均168個だった。

 プレゼントは社会規範の範囲内に収まるか。先の実験で50セント払うのでなくスニッカーズのチョコバーを、5ドル渡すのではなくゴディバのチョコレートを渡した場合は、前者は平均162個、後者は平均169個と、何も貰わなかった場合の平均168個と遜色ない数字となった。『そこで結論、ちょっとしたプレゼントで気分を害する人はいない。たとえたいしたものでなくても、それによって社会的交流の世界にとどまることができ、市場規範に近づかずにすむからだ。』(N1667)ただし50セントのスニッカーズなどと値段をあかして渡した場合に『実験協力者が課題に費やした労力は、五〇セントが支払われたときと同じだった。値段をあかしたプレゼントに対する反応は、現金に対して示された反応とまったく変わらず、このプレゼントはもはや社会規範を呼び起こさなかった。値段の話が出た時点で、プレゼントは市場規範の領域へ移ってしまったのだ。』(N1679

 「13章 わたしたちの品性について その1」実験でごまかしの効かないグループでは平均正答数326問だった一般教養のテストで作業用紙から答えをマークシートに書き写す時に正答を見えるようにすると平均362問を正答と申告し、先の条件に加えて作業用紙を破棄するよう指示された場合は平均359問正答と申告、そして作業用紙もマークシートも破棄するように指示された後に正答数にふさわしい数のコインを自分で取るように言われた場合の平均正答数は361問だった。『この実験から何がわかったか。第一の結論は、チャンスがあれば、多くの正直な人がごまかしをするということだ。少数の悪いやからが全体の平均を押しあげたのではなく、大多数の人がごまかしをしたこと、そして、ごまかしの程度はわずかだったことがわかった。(中略)第二の、もっと思いもよらない結果はさらに印象的だ。実験協力者は、いったんごまかそうという気になったら、見つかる危険があることには左右されなかったらしい。用紙は破棄できないがごまかすチャンスがあったとき、正答数は三二・六問から三六・二問に増えた。しかし、用紙を破棄する――小さな犯罪の証拠を完全に抹消する――チャンスが与えられてもそれ以上は不正を働かず、学生は同じ程度のごまかしで思いとどまった。つまり、わたしたちは、ばれる危険がまったくなくても、とんでもなく不正直になったりはしない。』(N5047

 十戒の内容を思い出してもらったり、簡単な宣誓の文言に署名してもらうだけで(その文言は「MIT無監督試験制度の倫理規定のもとに行われていることを承知しています」で、実際には無監督試験制度の倫理規定は存在しないのに)ごまかしはなくなり、ごまかしのきかないグループと変わらない平均正答数となった。

 「14章 わたしたちの品性について その2」現金から一歩はなれることで不正行為が行われやすい。実験、簡単なテストで正答1問につき50セント渡す。そのまま解答用紙を出してもらう場合の平均正答数は35問。解答用紙を破って正解数を実験者に伝えて現金をもらう場合の平均正答数62問、解答用紙を破って正解数を実験者にその分の引換券(代用貨幣)をもらい同じ部屋の4メートル離れたところで現金に換える場合の平均正答数94問。『通常の状況で不正の機会を与えられると、学生は平均で二・七問分の不正をおこなう。ところが、同じように不正の機会を与えられても、代用貨幣がからんだとたん、不正は五・九問分も増え、二倍以上にはねあがるのだ。現金のための不正と、現金から一歩離れたもののための不正とでは、なんとも大きいちがいがあるものだ。』(N5451