見てしまう人びと

 

見てしまう人びと 幻覚の脳科学

見てしまう人びと 幻覚の脳科学

 

 

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 『幻覚の原因はじつに多種多様であり、精神に全く異常がなくても起こりうる。そのような症例を数多く診てきたサックス医師は、幻覚はけっして狂気のしるしではないことをそれどころか脳の働きを洞察するための貴重な情報源であることを、広く世間に伝えたいという想いで、この本を書いている。』(N4625

 シャルル・ボネ症候群(CBS)。『目の見えない人や視覚に障害のある人が幻覚を見るのは珍しくはなく、その幻影は「精神病」ではなく、視覚を失ったことへの脳の反応』(N141)。

 『CBS患者の大半は、自分が幻覚を見ていることに(たいていは幻覚があまりに場ちがいなので)気づくが、(中略)もっともらしく状況に合っている幻覚もありえるので、そのような場合、少なくとも最初は現実ととらえられることもある。』(N229)その逆で19階の部屋の外に男性がいて手を振ってきたので幻覚だと思って無視したら、窓ふき作業員だったという場合もある。

 『フィッチェらは、通常の視覚的想像と実際の幻覚の明確な差異も観察した。たとえば、色つきの物体を想像しても視覚野のV4領域は活性化しなかったが、色つきの幻覚は活性化したのだ。このような発見は、主観的にだけでなく生理学的にも、幻覚は想像とはちがうもので、知覚にかなり近いことを裏付けている。ボネは一七六〇年に幻覚について、「心は幻と現実を区別できないだろう」と書いている。フィッチェらの研究は、脳も両者を区別していないことを示している。』(N396V4領域は色を識別する脳の部位。

 感覚遮断による幻覚。失明や半盲、視力の衰えなどによって幻覚を見ることもあるが、目隠しを続けるなどという視覚遮断でも同じように幻覚が生じる。アルバロ・パスカル=レオーネやメラベットらによる、96時間目隠しながら過ごすという実験の場合は『一三人のうち一〇人が幻覚を経験し、目隠しをして数時間以内に起こる場合もあったが、目を開けていると閉じているに関係なく、二日目には必ず起こった。(中略)被験者が報告する幻覚は、単純なもの(点滅する光、眼内閃光、幾何学模様)から複雑なもの(人影、顔、手、動物、建物、風景)まで幅広がった。(中略)大部分の幻覚はほとんど情緒的反応を誘発せず、「面白い」とされている。』(N683)他の感覚を使う活動をしているときは幻覚を経験する被験者はいなかった。『メラベットらは、被験者が報告する幻覚はシャルル・ボネ症候群(CBS)患者が経験するものとまったく同じであり、この実験結果は視覚遮断だけでも十分にCBSの原因になりえることを物語っていると感じた。』(N696

 『自由意思による視覚心像がトップダウンのプロセスであるのに対し、幻覚は、正常な感覚入力の欠如により以上に興奮しやすくなった腹側視覚路の領域が、直接ボトムアップで活性化した結果なのだ。』(N709