トムは真夜中の庭で

 

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

 

 

 ネタバレあり。

 ある夏に主人公トムは兄弟のピーターがはしかにかかったため、しばらくおじさんの家に滞在することになる。そこでトムははしかがうつっているかもしれないから人が集まっているところも行くこともできず外に出られないので退屈さを持てあましていた。そのおじさんたちが暮らすアパートは大きな邸宅だったものをいくつかに区切ってアパートに変えたもので、ホールにある大時計は一時間ごとに何時かを告げる音を鳴らすがその時間を正確に打ったことはないという代物。

 トムはベッドに入っても一向に眠れず、真夜中にその大時計が13回音を鳴らしたのを聞く。トムはそのことが気になり、眠気も全然なかったので、そっと家を出てホールまで古時計を見に行く。その時に月明かりで時計の文字盤を見ようと裏口のドアを開けると立派な庭園が広がっていた。それで明日の昼にでも行こうと思い、翌日裏庭に行こが、そこには舗装された狭い空き地とゴミ箱と車しかなかった。そしてトムは大時計があの裏庭を見せているのではないかと思う。そしてその晩に再び大時計が十三時をうったのを聞いて裏口を開けると、昼には無かったあの庭園が広がっていた。

 そしてトムは翌日から毎晩こっそりと部屋を抜け出して庭園に行って遊んだ。バラバラな時間をうつ大時計のように毎晩トムが行く庭園も日ごとに季節や時刻もバラバラ。そしてその庭の時間の進み方も特殊で、しばらく探索した後に家に戻っても数分しか経っていなかった。またその庭園は過去の邸宅時代にあった庭園の姿のようで、庭園の中ではトムは物を動かすことができないし、他者からも見えていないようだった。

 しかし、その庭園にいる人々の中で従兄弟たちと遊んでもらえず一人でいることが多かったハティという少女にはトムのことが見えて話すこともできた。それでトムとハティは友達となり話したり遊んだりするようになる。そしてトムは庭園でハティと遊ぶことが楽しいので、まだ家に帰りたくないと思って滞在を伸ばす。

 トムは毎晩庭園に来ているのだけど、庭園の時間はとびとびなのでハティの体験的にはトムと会うのは数カ月に一度とかそんなもののようだ。そしてハティが大人へとなっていくにつれて、ハティの目からはトムの姿は徐々に透けて薄く見えるようになっていった。

 かつてのハティの部屋が現在のトムが滞在する部屋となっている。そのトムの部屋の一角にハティの秘密の場所があって、トムはスケートを使わないときはその場所に隠しておいてくれとと頼む。それで邸宅の中に帰って、その場所を調べると古びたスケート靴を発見する。物を介して過去と現在がしっかりつながっていて、ハティがかつてここで暮らしていたのだと確信できる証拠を手に入れるこのエピソードはなんか好き。トム本人的には次の機会にハティとスケートができるようにという思いのほうが強いのかもしれないけどね。

 その翌夜に庭園に出ると再び冬、記録的な寒い冬で多くの川が凍った年、ハティは少し遠くまで行ってスケートで川の上を進みながら邸宅まで帰るという冒険に繰り出し、トムはそのお供をすることになる。

 ハティは帰る途中で出会った知り合いのバーティ(バーソロミュー氏)の車に乗って邸宅に戻ることになるが、バーティと会話している間ハティはトムのことを気にせず、自分の手がトムの体を貫いても気づかない様子だった。トムは二人が大人の話をしてつまらないと思っているうちに寝入ってしまう。翌晩には再び子供時代のハティと会えるかもと思い、再び真夜中に裏口を開けるがそこには庭園がなくあるのは昼間と同じ小さな舗装された空き地とゴミ箱と車ばかり。スケートの冒険でハティの子供時代が完全に終わり、トムも庭園にいけなくなった。

 それでトムは悲しくて泣いてしまう。しかしその後まもなくアパートの大家のバーソロミューおばあさんがハティだということがわかって、あの庭でともに遊んだ二人は現代で再会して話をすることになる。そしてトムが家に帰る前にまた会うことを約束して少しかしこまった挨拶をした後に違うなと思ったのか、階段を駆け上りハティのもとにもどり抱擁を交わすという最後のシーンがいいね。